特定技能制度は現在日本における人材不足の手助けになっており、企業側も日本で働く外国人にとっても大きなメリットがあります。
また、現在も改訂が進められている特定技能制度ですが、特に注目されているのが「農業」分野です。農業分野は、高齢化社会における後継者不足に悩む農業事業者にとって重要な業種になります。
この記事では特定技能の農業で働く側と、日本で受け入れる農業者側に役立つ情報を詳しくお伝えします。ぜひ、こちらの記事を参考にしながら特定技能の農業の知識を深めていきましょう。
日本の農業が抱える高齢化問題
現在、日本では高齢化や少子化が原因で、各企業の人手不足が問題になっています。その中でも特に深刻なのが、農業分野です。
日本各地で農業経営を行っている従業員の数は年々減少しており、後継者不足の農業者は少なくありません。
2022年の基幹的農業従事者数のデータを見てみると、50〜64歳・65〜74歳の高齢者層が前年に⽐べて約30〜40人も減り、全体的に見ても減少傾向が続いています。
また、全世代の農業従事者数では、65歳以上の基幹的農業従事者数が全体の約7割を占めており、高齢化問題は深刻な状況です。
さらに、基幹的農業従事者の平均年齢も68.4歳と⾼齢化が進んでいるため、日本国内における農家の雇用労働力を採用確保していく対応が迅速に求められています。
特定技能「農業」が1号から2号に変更
2019年4月から開始された在留資格である特定技能制度は、入国前後の講習は必要ないなど技能実習と比べて日本で働きやすい利点があります。
特定技能で働く際は試験などに合格する必要がありますが、主に次のような条件が求められています。
- 一定の専門性や技能を有し即戦力となる外国人材であること
- ある程度の日常会話ができて生活に支障がない程度の日本語能力を有すること
また、特定技能には「1号」と「2号」の2種類ありますが、従来の法律では農業分野は特定技能1号として扱われていました。
しかし、 2022年6月の閣議決定で特定技能2号の対象分野が追加されたことにより、農業も2号で外国人労働者の受け入れが可能になりました。
特定技能2号は、1号での在留期間最長5年の受け入れ期限の更新がないなどメリットが多くあります。
そのため、今後農業分野が2号になることで日本での将来的な生活の目的が、今よりもっと幅広く考えられるようになるでしょう。
なお、現状の1号の通算最長5年間は日本に滞在しながら通しで働いたり、一旦帰国してからまた日本に戻って働いたりするなど柔軟な雇用が可能です。
日本で働く特定技能の外国人の現況
特定技能分野は受け入れ上限人数が決められており、2024年の期限の受け入れ上限は全分野で34万5,150人になります。
また、特定技能1号の在留外国人数は、2023年6月末現在で17万3,089人に及びます。
多くの外国人が特定技能で働いている現況がありますが、その中の農業分野の割合を見ていきましょう。
農業分野の外国人材は2万882人(12.1%)で、飲食料品製造業、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、介護に次いで、12分野中4番目の多さになり、増加傾向にあります。
また、外国人材を国籍別で見てみると、一番多い国がベトナムでインドネシア、フィリピン、中国、ミャンマーと続きます。
その中で、今後の特定技能の農業で注目をしたい国がミャンマーです。ミャンマーの主要産業は農業なので、日本の即戦力として働ける人材を確保できるでしょう。
参考: 出入国在留管理庁 特定技能在留外国人数(令和5年6月末現在)
特定技能の農業で外国人を受け入れる要件
次に、特定技能の農業で外国人を受け入れる法人の要件についてご説明します。
主に、受け入れには下記の要件を満たす必要があります。
- 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること
- 過去1年以内に、特定技能外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者を離職させていないこと
- 過去1年以内に、当該機関の責めに帰すべき事由により行方不明の外国人を発生させていないこと
- 刑罰法令違反による罰則を受けていないことなどの欠格事由に該当しないこと
その他、雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていることなど、安全に外国人を受け入れられるさまざまな条件が課せられています。
また、以上の条件をクリアした上で、農業分野の特定技能所属機関などに対して課される条件を満たしていることが必要です。
なお、農業分野の特定技能所属機関等に対して課される概要については、法務省の「特定技能外国人受入れに関する運用要領」などを参照してください。
特定技能「農業」受け入れの業務範囲
日本で農業事業者が特定技能外国人材を受け入れることができるのは「耕種農業」と「畜産農業」の業務です。
また、業務内容には、栽培管理又は飼養管理の業務が必ず含まれていることが必要です。
耕種農業全般の作業 | 畜産農業全般の作業 |
---|---|
栽培管理 | 飼養管理 |
農産物の集出荷 | 畜産物の集出荷 |
農産物の選別など | 畜産物の選別など |
耕種農業や農畜産物ともに通常従事する業務については、特定技能人材に資格と関係しない付随業務を任せることが可能です。
基準としては、加工・運搬・販売の作業、冬場の除雪作業など同じ農業者の下で日本人が普段から従事している関連業務になります。
なお、関連業務を主として従事させることはできないので注意が必要です。
農業特定技能協議会について
次に、特定技能の農業で外国人を雇用する場合に重要な農業特定技能協議会についてご説明します。
農業者など雇用側は、就労させたい外国人材と雇用契約を結び、出入国在留管理局へ申請します。
申請時期は、申請時に特定技能人材向け在留カード番号などを記入して届出する必要があるため、受け入れが決まってからで構いません。
また、特定技能1人目を受け入れてから4か月以内に農林水産省が設置する「農業特定技能協議会」への入会が必須です。
農業特定技能協議会への手続き方法は農林水産省HPで行い、入会後に加入通知が届きます。
その後、地域協議会が設置された場合に当該農業特定技能協議会に加入された方は、地域協議会の構成員にもなります。
なお、農業特定技能協議会に加入した後は、農業特定協議会に対して必要な協力をしなければなりません。
農業者が受け入れる際の雇用について
農業者が特定技能人材を雇用する際、日本での生活をサポートするために法令で定められた支援を行う義務があります。
また、具体的にどのように雇用をしていくかを定めた支援計画を事前に作成する必要があります。
なお、外国人材への支援に対しては、農業者自身で行う方法や登録支援機関に委託することも可能です。
次に、特定技能人材の受け入れ雇用の注意点について詳しく説明していきます。
・直接雇用
・派遣形態
・転職
・報酬額
・費用
上記について、それぞれの内容を確認していきましょう。
直接雇用
農業者が特定技能外国人を直接雇用する場合、受入れ機関には労働者を一定期間以上雇用した実務経験が求められています。
具体的には、過去5年以内に1人の労働者を最低6か月以上継続して雇用した経験が必要です。
派遣形態
特定技能の農業分野は他の分野と比べて大きな違いがあります。
それは、直接雇用に加えて派遣での受け入れができることです。
特定技能12分野の中でも農業と漁業の2分野だけが、派遣形態での受入れが認められています。また、複数の農業者のもとで業務に従事することも可能です。
派遣形態の場合、派遣元である労働者派遣事業者が受入機関となり、派遣先である農業者と派遣契約を締結します。
特定技能の農業で働く外国人は派遣事業者と雇用契約を結ぶことになりますが、作業の指揮命令は派遣事業者ではなく派遣先の農業者になります。
なお、受け入れを検討する法人は、事前に協議会での協議を行うなど準備をしっかり行う必要があります。
そのため、法律や労働環境面などを考えてみても受け入れ体制の整っていない法人への派遣は難しいのが現状です。
転職
特定技能外国人の農業での転職は、同業者内であれば原則可能です。
しかし、同一の業務区分内か試験などで当人の技能水準の共通性が確認されている業務区分間のみ認められています。
また、農業の特定技能のみで来日した外国人の場合は、農業以外での他業種へ転職することは認められておらず、アルバイトも出来ません。
なお、雇用期間の終了後に外国人が同一地域内の別の農業者と雇用契約を締結する際は、農業者が地方出入国在留管理局で新たに在留資格変更許可を受けることが必要です。
報酬額
特定技能外国人の報酬額は、自らが雇用している他の日本人が同等の業務に従事する場合に貰える額と同等以上であることが求められます。
また、他の日本人従業員と同様に適切な労働時間や休憩、休日を設けることが必要です。
費用
特定技能で外国人を雇用する場合は、以下のようにさまざまな費用がかかります。
- 特定技能で働く本人に支払う費用
- 特定技能ビザの申請書類の提出や支援にかかる費用
- 人材紹介料や送出機関に支払う費用 など
特定技能「農業」に必要な試験
特定技能の農業で働きたい外国人は農業に従事できることを証明できる資料として、試験に合格することが必要です。
具体的には、農業技能測定試験(耕種農業または畜産農業)と「日本語能力試験N4以上」または「JFT-Basic」が該当します。
また、試験が免除される技能実習からの移行する方法もあります。
それぞれについて詳しく解説していきます。
農業技能測定試験
農業技能測定試験は、一般社団法人全国農業会議所が実施主体になり「畜産」と「耕種」に分かれている技能試験です。
試験時間は60分で70問程度になり、日本語音声を聞くリスニングテストと学科試験や実技試験で構成されています。
試験内容は、農業全般の技能に関する学科と実技問題、日本語で指示された農作業の内容などの聴き取り問題があります。
また、実際の農作業現場で必要になる日本語能力が身についているのかを認定するための日本語問題も含まれています。
試験の申し込みは、プロメトリックIDを取得し、メールアドレスとパスワード、住所を入力。その後、アカウントでログインして予約サイトの画面で受験したい会場を選択して決定します。
試験には本人確認書類としてパスポートまたは在留カードの提示が必要になりますが、いずれもコピーは認められていません。
なお、予約や変更、キャンセルなどは試験日の60日前から試験日の土日祝日を除く3営業日前の日本時間の23:59まで可能です。
日本語能力試験
日本語能力試験は、国際交流基金と日本国際教育支援協会が運営しており、年間100万人以上が受験する世界最大規模の日本語試験として知られています。
試験日程の実施日は、毎年7月と12月の年2回(第1日曜日)です。
試験内容は、言語知識(文字・語彙・文法)・読解・聴解の3つの要素から言語コミュニケーション能力を測り、マークシート方式で行われます。
JFT-Basic
JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)は、日本での日常生活に支障がない程度の日本語能力があるかどうかを判定するテストです。
JLPTには、次のような難易度の定義があります。
・基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な文章を読んで理解できる
・ややゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できる
テスト内容は、文字と語彙・会話と表現・聴解・読解の4つの要素で構成されており、CBT方式で実施されます。
試験時間は60分で各要素15問ずつ(計60問)出題されており、A1・A2・B1・B2・C1・C2の6つのレベルが設定されています。
技能実習からの移行
外国人の日本語能力や農業分野の技能水準は、基本的に試験で確認しますが、次の場合は技能実習生から特定技能へ移行できます。
- 技能実習2号を良好に修了した者
- 技能実習3号を修了している者
上記の場合、農業技能測定試験や日本語能力試験の合格が不要となり、在留資格特定技能に係る各種申請手続きを行うことが可能です。
なお、技能実習2号を良好に修了した者とは、技能実習を2年10カ月以上の業務経験を修了した上で、下記のどちらかを満たしていることが必要です。
- 農業技能実習評価試験の専門級以上の合格証を取得できること
- 技能実習を行っていた実習実施者が当該外国人の出勤状況や技能等の修得状況・生活態度等を記載した評価調書を提出すること
まとめ
特定技能における農業分野で働く外国人の人材は、人手不足で悩む農業者にとってなくてはならないものになりつつあります。
また、今後も海外に住む外国人が特定技能の農業労働者として、日本で安心して働けるように環境整備を整えることが必要です。
環境整備の中には、特定技能の農業で働こうとしている外国人にとっても受け入れる農業者にとっても、煩雑な手続きや書類準備などで困ることがあるかも知れません。
もし、法律の改定や各種書類の手続きなど在留資格や登録支援機関に関することで困った場合は、行政書士など専門家を活用して相談してみると良いでしょう。