現在、全国的に人手不足が深刻化している外食業界。人手が足りないために営業時間を短縮したり、外国人労働者の採用を検討したりする店舗も多いです。
そこで今回の記事では、外食業界で即戦力として働ける人材を雇用できる「特定技能制度」について解説します。
外食業界で特定技能外国人を雇用する条件や注意点にも触れていますので、参考にしてください。
特定技能「外食業」とは?
特定技能制度は、2019年に施行されました。
制度の目的は「日本の人手不足を解消するために、技能が一定水準に達している外国人を働き手として雇用する」ことです。
技能実習制度や就労ビザと混同されがちな特定技能制度ですが、外国人技能実習生は「日本の技術を海外に広める」ことを目的としているため、技術を必要としない単純作業ができません。
一方、特定技能制度は人手不足解消のための制度なので、単純作業が可能です。
特定技能制度と技能実習制度には他にも様々な違いがありますが、特定技能は労働力を確保するための制度だと覚えておけば間違いはないでしょう。
ちなみに、一般的な就労ビザを取得するには学歴や実務経験が必要ですが、特定技能は必要ありません。
特定技能制度の受け入れ対象は、需要が高く、特に人手不足が深刻化している以下の12分野です。
農業や漁業はもちろん、外食・飲食業などのサービス業も含まれています。
- 宿泊業
- 介護業
- 外食・飲食業
- ビルクリーニング業
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 飲食料品製造業
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 農業
- 漁業
特定技能「外食業」で対応できる業務
外食分野の特定技能外国人が従事できる業務は、以下の3種類です。
- 飲食物調理
- 接客
- 店舗管理
詳しくは下記の資料をご覧ください。
ここでは、それぞれの業務について解説しています。
飲食物調理
「飲食物調理」は、飲食店のキッチンで行う業務のことです。
具体的には、以下のような業務を指します。
- 食材仕込み
- 加熱調理
- 非加熱調理
- 調味
- 盛り付け
- 飲食料品の調製 等
接客
「接客」は、飲食店のホールで行う業務のことです。
具体的には、以下のような業務を指します。
- 席への案内
- メニュー提案
- 注文伺い
- 配膳
- 下膳
- カトラリーセッティング
- 代金受取り
- 商品セッティング
- 商品の受け渡し
- 食器・容器等の回収
- 予約受付
- 客席のセッティング
- 苦情等への対応
- 給食事業所における提供先との連絡・調整 等
店舗管理
「店舗管理」は、上記2業務以外の店舗運営に必要な業務のことです。
具体的には、以下のような業務を指します。
- 店舗内の衛生管理全般
- 従業員のシフト管理
- 求人・雇用に関する事務
- 従業員の指導・研修に関する事務
- 予約客情報・顧客情報の管理
- レジ・券売機管理
- 会計事務管理
- 社内本部・取引事業者・行政等との連絡調整
- 各種機器・設備のメンテナンス
- 食材・消耗品・備品の補充、発注、検品又は数量管理
- メニューの企画・開発
- メニューブック・POP広告等の作成
- 宣伝・広告の企画
- 店舗内外・全体の環境整備
- 店内オペレーションの改善
- 作業マニュアルの作成・改訂 等
特定技能「外食業」で対応できない業務
ここでは、特定技能「外食業」で対応できない業務について解説しています。
接待を行う飲食店での就労・接待業務
キャバクラやバーなど、風俗営業法既定の接待を伴う飲食店で特定技能外国人を就労させることはできません。
また、同法既定の「接待」を行わせることもできません。
風俗営業法については下記をご覧ください。
参考:「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例等の一部改正について」警視庁
単純作業のみ
特定技能外国人は、清掃や皿洗いなどの単純作業にも従事できます。
しかし、これらの仕事のみに従事し、キッチンやホールに全く関わらないことは認められていません。
関連業務のみ
飲食物調理や接客、店舗管理以外の業務を行っている飲食店もあるでしょう。
例えば、ファミリーレストランでのおもちゃの販売や飲食物の配達などです。
特定技能外国人は、これらの「日本人が通常従事することとなる関連業務」にも従事できます。
ただ、単純作業と同様、関連業務のみに従事することは認められていません。
「外食業」で在留資格「特定技能」を取得するには?
外国人が「外食業」で在留資格「特定技能」を取得するには、以下の技能試験に合格する必要があります。
- 外食業技能測定試験
- 日本語能力試験
ここでは、それぞれの試験の概要をまとめています。
外食業技能測定試験に合格する
外食業技能測定試験とは、一般社団法人外国人食品産業技能評価機構(OTAFF)が実施している「外食業特定技能1号技能測定試験」のことです。
外食業界で働く際に必要な知識や技能を測定します。
学科試験と実技試験があり、合格基準は満点の65%以上です。
2020年に日本国内で行われた試験では、4211人が受験しました。
合格率は50%程度で、ある程度の日本語能力があれば試験はそこまで難しくありません。
試験は年3回行われ、日本全国で実施されます。
また、国外試験は、カンボジア、フィリピン、インドネシア、タイ、ネパール、ミャンマーの6ヶ国で実施されます。
試験の特徴は、配点が3タイプあることです。
試験では接客・飲食物調理・衛生管理の3分野について問われますが、標準的なAタイプ、調理重視のBタイプ、接客重視のCタイプに配点が分かれています。
つまり、キッチンで働きたい受験者はBタイプ、ホールで働きたい受験者はCタイプと、自分の希望に合わせた配点を選択できるのです。
受験資格は下記の通りです。
- 在留資格を持っており、試験日に満17歳以上
- 退去強制令書の円滑な執行に協力するとして、法務大臣が告示で定める外国政府又は地域の権限ある機関の発行したパスポートを持っていること
受験資格や試験日程、試験会場などについては下記をご覧ください。
試験の申し込みも下記から行えますが、申し込みにはマイページ登録が必要です。
参考:「特定技能1号技能測定試験 外食業測定試験」一般社団法人外国人食品産業技能評価機構
日本語能力試験(Japanese Language Proficiency Test)N4以上に合格する
日本語能力試験(JLPT)とは、公益財団法人日本国際教育支援教会と独立行政法人国際交流基金が実施している、日本語を母語としない人の日本語能力を測定する試験です。
試験のレベルはN5からN1までの5段階に分かれていて、特定技能の在留資格を得るにはN4以上に合格する必要があります。
2022年12月には43万人以上が受験した、人気の高い試験です。
N4の合格率は30%~50%で、合格には400~500時間程度の勉強時間が必要だと言われています。
試験科目も文字・語彙・文法・読解・聴解と多いため、計画性を持って学習することが大切です。
試験は毎年7月と12月に行われ、日本国内だけでなく、世界各国で受験できます。
学歴や年齢、性別、国籍、職歴などによる制限はないので、誰でも受験が可能です。
「外食業」で特定技能外国人を雇用する条件は?
「外食業」で特定技能外国人を受け入れる「特定技能所属機関」に認定されるためには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である
- 特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
- 特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である
- 食品産業特定技能協議会に加入している
詳しくは下記の資料をご覧ください。
ここでは、それぞれの項目について解説しています。
法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である
当然ですが、特定技能外国人を受け入れるのであれば、きちんと法令等を遵守しており、問題がない企業でなければなりません。
具体的には、以下の条件を満たしている必要があります。
- 労働保険料・社会保険料・税金を納付していること
- 1年以内に非自発的離職者を発生させていないこと
- 1年以内に外国人の行方不明者を発生させていないこと
- 5年以内に入管法・労働法令等に違反していないこと
- 5年以内に技能実習を取り消されていないこと
- 職員の行為能力や適格性に問題がないこと
- 債務超過になっていないこと
- 保証金や違約金の徴収を求めていないこと
- 支援に関わる費用を負担させないこと
- 労災保険に加入していること
特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
特定技能外国人を雇用するのであれば、労働に関わる法令を遵守しているだけでなく、特定技能制度特有の要件に対応できなければなりません。
具体的には、以下の条件を満たしている必要があります。
- 相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事させること
- 特定技能外国人の労働時間は通常の労働者と同等であること
- 特定技能外国人の報酬額は日本人と同等以上であること
- 特定技能外国人が一時帰国を希望した場合は、有給休暇を取得させること
- 本人が帰国旅費を負担できない場合は補助すること
- 特定技能外国人に定期健康診断を受診させること
- 報酬支払方法が銀行口座振り込みであること
在留資格申請時は、これらの条件を満たしていることを証明するために下記の書類を提出します。
- 特定技能雇用契約書の写し
- 雇用条件書の写し
合わせて覚えておきましょう。
特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である
特定技能所属機関は、特定技能外国人に対して、職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援を行うことを義務付けられています。
また、支援計画を策定・実施する必要もあります。
つまり、きちんと外国人を支援でき、適切な支援計画を策定・実施できる企業でなければ、特定技能外国人を雇用することはできないのです。
具体的には、以下の条件を満たしている必要があります。
- 特定技能外国人が理解できる言語で支援を行うこと
- 1号特定技能外国人支援計画を作成していること
- 事前ガイダンスを実施していること
- 出入国時に空港等への送迎をすること
- 特定技能外国人の住居確保に関わる支援を行うこと
- 特定技能外国人の入国後、適切な情報提供を行うこと
- 特定技能外国人の生活に必要な契約に関する支援を行うこと
- 特定技能外国人に日本語学習の機会を提供すること
- 特定技能外国人と日本人との交流を促進すること
- 非自発的離職時、転職支援を行うこと
- 過去2年間に中長期在留者等(就労系資格に限る)の受入れ経験等があること
ちなみに、支援計画の策定・実施に関しては、登録支援機関に全てを委託できます。
食品産業特定技能協議会に加入している
食品産業特定技能協議会は、飲食料品製造業分野と外食業分野の特定技能外国人の受入れを支援する団体です。
農林水産省・特定技能所属機関・登録支援機関・業界団体・関係省庁の連携強化を図り、特定技能制度が適切に運用されるよう統括を行います。
特定技能外国人を受け入れる特定技能所属機関は、協議会に加入し、構成員になることが求められています。
加入のタイミングは、初めて特定技能外国人を受け入れてから4ヶ月以内です。
4ヶ月以内に食品産業特定技能協議会に加入していない場合は、特定技能外国人の受入れができなくなってしまいますので、忘れずに加入しましょう。
また、2人目以降の受け入れの際に改めて加入し直す必要はありません。
加入の際は、農林水産省のフォームに必要事項を入力し、ウェブ上で入会申請を行います。
加入証明書はメールで交付されるので、協議会のメールアドレスからメールを受け取れるようにしておきましょう。
詳しくは下記をご覧ください。
参考:「食品産業特定技能協議会(飲食料品製造業分野・外食業分野)について」農林水産省
特定技能外国人を受け入れる方法
特定技能外国人受け入れの基本的な流れは以下の通りです。
- 自社で求人を出す、人材紹介会社を利用するなどの方法で特定技能外国人を募集する
- 企業と特定技能外国人が特定技能雇用契約を結ぶ
- 登録支援機関に支援を委託する場合、登録支援機関と支援委託契約を結ぶ
- 企業と登録支援機関が特定技能支援計画を策定する
- 企業と特定技能外国人が在留資格に関する手続きを行う
- 入管当局で審査
- 審査後、雇用・支援を開始
受け入れ後の各種届出
特定技能外国人を受け入れた後は、地方出入国在留管理局に定められた届出を提出する必要があります。
契約の開始や終了時にはもちろん、四半期ごとに提出する届出もありますので覚えておきましょう。
四半期ごとに提出しなければならない届出は以下の通りです。
- 受け入れ状況に係る届出書
- 支援実施状況に係る届出書
- 活動状況に係る届出書
届出は持参か郵送で、管轄の地方出入国在留管理局に提出します。
なお、登録支援機関に支援計画を委託した場合、支援実施状況に係る届出書の提出は不要です。
特定技能外国人の在留期間は?
特定技能は「特定技能1号」と「特定技能2号」に分かれており、特定技能1号の在留期間は最長5年間です。
特定技能2号は在留期間の制限がなく、更新を続ければ日本に永住できます。
特定技能2号の受け入れ対象となっている分野は建設業と造船・舶用工業のみだったため、基本的に外食業界では特定技能1号が雇用されています。
しかし、2023年6月より、特定技能2号の対象業種が拡大され、外食業界でも特定技能2号の受け入れができるようになりました。
そのため、今後は外食業界でも特定技能2号の受け入れが広がっていく可能性があります。
詳しくは下記をご覧ください。
参考:「特定技能2号の対象分野の追加について」出入国在留管理庁
受け入れ人数の条件はある?
特定技能制度は人手不足解消を目的としているので、受け入れ人数の上限はありません。
介護分野と建設分野では「日本人等の常勤職員の総数を超えた特定技能外国人は雇用できない」と定められていますが、外食分野での雇用を考えているのであれば気にする必要はないでしょう。
「外食業」で特定技能外国人を雇用する際の注意点
ここでは、「外食業」で特定技能外国人を雇用する際の注意点について解説しています。
雇用形態
特定技能外国人の雇用形態は、フルタイムのみ認められています。
パートタイムやアルバイトの雇用形態で働くことはできません。
フルタイムとは、原則労働日数が週5日以上、かつ年間217日以上で、週の労働時間が30時間以上であることを指します。
給与・労働時間
報酬額や労働時間は通常の労働者と同等でなければなりません。
また、研修・福利厚生施設の利用・その他待遇も通常の労働者と同等である必要があります。
業務内容
前述したように、特定技能外国人を接待させる飲食店で就労させたり、接待業務を行わせたりすることはできません。
また、単純作業のみに従事させたり、宅配や雑貨販売などの関連業務のみに従事させたりして、調理や接客に関わらないことも認められていません。
ルールを守って特定技能外国人を受け入れよう
今回の記事では、外食業界で即戦力として働ける人材を雇用できる「特定技能制度」について解説してきました。
「外食業」で特定技能外国人を雇用する場合、以下の点に注意してください。
- 特定技能外国人は幅広い業務に対応できるが、接待など任せられない業務もある
- 特定技能外国人の報酬額や労働時間、福利厚生は日本人と同等でなければならない
- 特定技能外国人の受け入れ後は、食品産業特定技能協議会へ加入し、各種届出を提出する必要がある
特定技能外国人が対応できない業務を任せてしまったり、届出を提出しなかったりすると、雇用主が罰せられるおそれがあります。
特定技能制度を活用する際は、出入国在留管理庁が定めたルールをしっかりと守りましょう。