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育成就労制度の問題点とは?技能実習制度との違いと新制度の課題

育成就労 問題点

技能実習制度の課題を抜本的に解決すべく、2027年に導入が予定されているのが育成就労制度です。技能実習制度は、新制度の施行と同時に廃止されることが決定しています。

技能実習制度は、外国人材の育成と確保をより明確な目的とし、技能実習制度で問題視されてきた課題の解消を目指しているのが特徴です。

しかし、その導入によって従来の課題が完全に解決されるとは言い切れません。新たな制度に伴う懸念も存在します。とくに、転籍の要件緩和や日本語教育の強化といった制度変更は、労働者と企業の双方にとって大きな影響を及ぼすことになります。

本記事では、育成就労制度の概要と改善点を押さえたうえで、制度が抱える問題点や今後の課題、そして企業がとるべき対応等の情報を詳しく解説します

目次

育成就労とは?技能実習との違いと導入の背景

問題を抱えている特定技能外国人

日本の労働力人口が減少の一途をたどる中、外国人材の受け入れは雇用を維持する上で不可欠となっています。

その中で重要な役割を担ってきたのが技能実習制度でした。

しかし、本来は開発途上国への技能移転を目的としたこの制度は、実態としては日本の労働力不足を補うための制度として機能しており、多くの課題を抱えています。

技能実習制度の抱える問題点

育成就労制度導入の背景を理解するためには、まず技能実習制度が抱えている深刻な問題点を把握する必要があります。

問題点
人権侵害の問題

技能実習生に対する暴力、ハラスメント、過酷な労働条件の強制などが繰り返し報道され、国際社会からも強い批判を受けています。

低賃金、不当な労働条件

一部の悪質な受け入れ機関や監理団体によって、最低賃金を下回る賃金での労働や、長時間労働、残業代の不払いといった不当な労働条件が横行しています。

実習生が声を上げにくい立場にあることを悪用したケースが少なくありません。

失踪、ブローカーによる悪質な搾取

劣悪な労働環境や経済的困窮から実習生が失踪するケースが後を絶たず、その背景には高額な手数料を搾取する送り出し機関や、失踪者を不法就労させるブローカーの存在がありました。

転籍の制限による労働者の権利侵害

技能実習制度では、原則として実習期間中の転籍が認められていません。

これにより、実習生は職場でのハラスメントや不当な労働条件に耐えざるを得ない状況に置かれ、労働者としての基本的な権利が著しく制限されています。

こうした問題があることで、日本に対する国際的な信頼が低下しており、また、外国人が安心して働ける環境が整っているとは言えない状況でした

育成就労制度の概要と目的

育成就労制度は、こうした技能実習制度の反省に立ち、より実態に即した形で外国人材を受け入れるための新たな在留資格として創設されます。

より実効性の高い人材育成を目指しており、2027年の本格運用に向けて関連法案の成立と制度設計が進められています

育成就労制度の主な目的は以下の2点です。

  1. 「人材育成」の強化:外国人材が日本で働きながら専門的な技能や知識を習得し、キャリアアップを図れるよう支援します。そして、単なる労働力としてではなく、長期的な視点での人材育成を重視します。
  2. 「人材確保」の促進:日本の産業界が直面する深刻な人手不足に対し、外国人材が即戦力として、あるいは将来的な担い手として貢献できるよう、安定的な受け入れを可能にします。

さらに、育成就労制度は、特定技能制度への円滑な移行を促進する役割も担います。

育成就労制度では、原則3年間という育成の期間が定められており、この間に業務を通じて技能や知識を段階的に取得していきます。

そして、所定の評価基準を満たし、必要な試験に合格することで、より高度な在留資格である特定技能1号への移行が可能になります。

特定技能1号で業務経験を積んだ後は、特定技能2号への移行も可能です。

育成就労制度で改善が期待される点

技能実習制度の問題点を踏まえ、育成就労制度では以下のような改善が期待されています。

転籍要件の緩和

原則禁止であった転籍が、一定の条件のもとで可能になります。

これにより、労働者が不当な扱いを受けた場合に職場を移る選択肢が生まれ、人権侵害の抑止力となることが期待されます。

監理団体の役割の見直し

技能実習制度における「監理団体」は、その機能が不十分であるとの批判がありました。

育成就労制度では、監理団体の役割を強化し、不適切な行為を行う団体に対する監督を厳格化することで、より実効性のある労働者の保護を目指します。

日本語学習の強化

外国人材が日本での生活や仕事に円滑に適応できるよう、日本語学習の機会をサポートし充実させることが制度に組み込まれます。

これにより、言語の壁に起因する様々なトラブルの軽減が期待されます。

送り出し機関の規制強化

高額な手数料を徴収するなどの悪質な送り出し機関に対する規制を強化し、来日前の段階での不当な搾取を防止する取り組みが進められます。

これらの改善策が、実効性を持って運用されるかどうかが、育成就労制度の成功の鍵を握ると言えるでしょう

育成就労制度が抱える問題点

費用計算をしている経理担当者

育成就労制度は、企業にとっては人材確保の新たな道を開くものですが、同時に新たな負担や課題も生じます。

以下で今後懸念されるポイントを紹介します。

転籍要件緩和の影響と人材の流動性

育成就労制度における転籍要件の緩和は、労働者の権利保護の観点からは歓迎すべき変更点です。

しかし、受け入れ企業側から見れば、これは新たなリスクにもなります。

企業が多大な時間とコストをかけて育成した外国人材が、育成途中でより良い条件を求めて他の企業へ転籍してしまう可能性があります。

特に、特定の技能を習得した人材は市場価値が高まるため、人材の引き抜き競争が激化し、結果的に人材確保の難易度や採用競争が激化することが懸念されます

企業は、外国人材に長く定着してもらうための魅力的な労働環境やキャリアパスを提供することがこれまで以上に求められ、そのための運用コストの増加も避けられないでしょう。

日本語教育の負担

育成就労制度では、外国人労働者に対する日本語能力要件が強化され、受け入れ企業には日本語教育の提供が義務付けられるなど、より実践的な日本語能力の習得が求められます。

日本語教育は、外国人労働者が日本社会に適応し、職場で円滑にコミュニケーションをとりながら働くために重要であり、キャリア形成や長期的な定着を支える基盤ともなります。

一方で、企業側にとっては、教材の準備や講師の確保、学習時間の調整など、日本語教育にかかる運用コストと労力が大きな負担になることが考えられます

とくに中小企業では、リソース不足により外部の支援機関や専門家に依頼せざるを得ず、その分コストが増加する可能性もあります。

今後は、日本語教育をいかに効果的かつ持続可能な形で組み込むかが重要な課題となるでしょう。

制度変更に伴う手続きの煩雑化と運用コストの増加

技能実習制度から育成就労制度への移行は、制度の根本的な見直しを伴うため、受け入れ企業にとっては新たな制度の理解が不可欠です。

それに伴い、在留資格申請手続きの変更、新たな監理体制への対応、社内規定の見直しなど、手続きの煩雑化は避けられません。

これらの変更に対応するための学習コストや、新たな体制構築のための初期投資、そして日々の運用におけるコスト増加につながる可能性があります

特に、専任の担当者を置くことが難しい中小企業にとっては、行政書士やコンサルタントへの依頼費用など、外部コストが増加する要因となることも考えられます。

受け入れ可能な職種の減少

育成就労制度では、現行の技能実習制度に比べて受け入れ可能な職種が限定される見通しです。

これは、育成就労制度が「特定技能制度」への移行を前提とした制度設計となっており、対象となる産業分野を特定技能の分野に一致させる形で運用されるためです。

※2025年時点で、特定技能1号の対象となっている分野は以下の16分野です。

介護 / ビルクリーニング / 工業製品製造業 / 建設業 / 造船・舶用工業 / 自動車整備 / 航空 / 宿泊 / 農業 / 漁業 / 飲食料品製造業 / 外食業 / 自動車運送業 / 鉄道 / 林業 / 木材産業

このような方針により、これまで技能実習生を受け入れていた企業の中には、新制度のもとでは外国人材の受け入れが難しくなる企業が出てくる可能性があります

とくに、特定技能の対象分野に含まれていない業界では、人材確保がさらに困難になることが懸念されています。

こうした企業にとっては、制度移行の影響が大きく、今後の受け入れ戦略の見直しが課題となるでしょう。

受け入れ企業に対する監査・指導の強化

育成就労制度では、過去の技能実習制度で明らかになった不正や人権侵害を防止するため、受け入れ企業に対する監査・指導が大幅に強化されます。

これにより、企業はこれまで以上に厳格なコンプライアンス順守が求められ、労働時間管理、賃金支払い、労働安全衛生など、多岐にわたる項目でのチェックが厳しくなります

企業側にとっては、内部管理体制の強化や、監査対応のためのリソース確保など、負担が増えることになります。

これは、労働者の権利保護を目的としたものであり、健全な制度利用を促すものと前向きに捉えるべきでしょう。

育成就労制度への移行のスケジュール

マークが書かれているカレンダー

育成就労制度は、2027年(令和9年)に正式に開始される予定です

制度の実施に向けて、以下のようなスケジュールが進行中です。

2025年(令和7年):基本方針や主務省令の作成

制度運用の基盤となる基本方針や各省庁による詳細な規定が作成されます。

ここで、制度の運用ルールや支援機関の役割が具体化していきます。

2026年(令和8年):分野別運用方針の作成・事前申請開始

分野別運用方針の作成:育成就労制度が対象とする産業分野を明確に設定します。

事前申請の開始:監理支援機関の認可や、受け入れ企業による申請受付など、運用準備が本格化します。

また、並行して外国人材を送り出す各国との間で、MOC(覚書)の交渉・作成・署名が進められます。

2027年(令和9年):入管法等改正法の施行

いよいよ制度が本格施行され、技能実習制度は段階的に廃止されます。

この年から新しい在留資格「育成就労」に基づく外国人材の受け入れが開始される予定です。

参考:育成就労制度の概要|出入国在留管理庁

Q&A:育成就労制度に関するよくある疑問

クエスチョンマークをもっている手

ここでは、育成就労制度に関して企業の方が抱きやすい疑問に答えます。

 企業はどのような準備をしておくべきですか? 

企業はまず、育成就労制度の具体的な内容(職種、日本語要件、転籍ルール、監理団体の役割など)を正確に把握することが重要です

特に、外国人材に対する日本語教育の提供体制や、公正な評価に基づく賃金・待遇体系の整備が求められます。

また、転籍の可能性を考慮し、外国人材が定着したいと思えるような魅力的な職場環境づくり、キャリアパスの提示も重要になります。

社内の受け入れ体制を再点検し、コンプライアンスを徹底するための教育・研修を行うことも必要です。

外国人の雇用を検討しているのですが、リスクはありますか? 

育成就労制度は、企業にとって人材確保の有効な手段となる一方で、これまで以上に責任と義務が伴います。

転籍による人材流出リスク、日本語教育や運用に伴うコスト負担、そして監査・指導の強化によるコンプライアンス順守の厳格化などが主なリスクとして挙げられます

これらのリスクを理解し、適切な管理体制を構築できるかが重要です。

しかし、このリスクは裏を返せば、健全な外国人材の受け入れを実現するための健全化プロセスでもあります。

適正な運用を行う企業にとっては、長期的に安定した人材確保につながるメリットの方が大きいと言えるでしょう。

育成就労制度の育成期間が終わった後はどうなりますか?

育成就労制度では、原則として3年間の育成期間が設けられています。

この期間内に業務を通じて技能や知識を習得し、評価試験や日本語能力試験などの規定の要件に合格した外国人労働者は、次のステップとして特定技能1号への移行が可能です

さらに、特定技能1号で一定の実務経験を積み、必要な試験に合格すれば特定技能2号へ進むことができ、将来的には在留資格の長期化や家族帯同の可能性も広がります。

このように、育成就労制度は外国人のキャリアの発展につながる仕組みとなっています。

育成就労の問題点 まとめ

就職活動をイメージしたミニチュアの特定技能外国人

育成就労制度は、日本社会における外国人労働者との新たな共生モデルを構築するための重要な制度改革です。

しかし、企業にとっては人材確保の機会であると同時に、責任やコストの増加といったリスクも伴います。

転籍の要件緩和、受け入れ体制の厳格化など、実効性ある運用のためには継続的な改善と関係機関との連携が不可欠です。

今後の法整備と実態に即した制度設計を通じて、外国人労働者の権利を守りつつ、日本の産業にとっても持続可能な制度として成熟していくことが求められています

育成就労制度の詳細については、今後順次発表されていく予定なので、最新情報をチェックし準備を進めていきましょう。

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県たつの市生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
・2019年外国人の日本語教育を簡単、安価にするため
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