農業は人手不足が深刻!解決のための取り組みを紹介

農業は人手不足が深刻!解決のための取り組みを紹介

農家の高齢化が著しいことや、日本の食料自給率が低いことに関しては、すでに何となく知っている方も多いでしょう。

実際、農業人口は2015年から2023年にかけて約60万人減っており、このままの減少ペースでは近いうちに100万人を割りかねません。未来の食糧需給を守るには、一刻も早く現場の労働環境を改善し、かつ新規就農者を増やす活動を続けていく必要があります。

今回は農業を取り巻く人手不足の現状、およびそれを解決するための様々な課題や取り組みを紹介していきますので、興味のある方はぜひご一読ください。

目次

農業を取り巻く人手不足の現状

農業を取り巻く人手不足の現状

農業従事者の数は長年減少を続けており、とりわけ若年層の新規就農者不足が深刻となっています。

以下で詳しく見ていきましょう。

農業人口は減少の一途をたどっている

農林水産省が実施した調査「農業労働力に関する統計」によると、日本の基幹的農業従事者(※)の数は、2015年から2023年までの間に約60万人減少しています。

(※)農業を生業としている人。趣味や副業の人は含まない。

平成27年 28年 29年 30年 31年 令和2年 3年 4年 5年
基幹的農業従事者 175.7 158.6 150.7 145.1 140.4 136.3 130.2 122.6 116.4
うち女性 75.1 65.6 61.9 58.6 56.2 54.1 51.2 48.0 45.2
うち65歳以上 114.0 103.1 100.1 98.7 97.9 94.9 90.5 86.0 82.3
平均年齢 67.1 66.8 66.6 66.6 66.8 67.8 67.9 68.4 68.7
引用:農業労働力に関する統計

その間、平均年齢は66〜68歳ほどで推移しており、農業人口の深刻な高齢化がうかがえます。

新規就農者数を見ても、2022年時点で過去最低の約4.5万人となっており、そのうち49歳以下の割合は40%にもおよびません。(約1.7万人)

平成26年 27年 28年 29年 30年 令和元年 2年 3年 4年
新規就農者 57.7 65.0 60.2 55.7 55.8 55.9 53.7 52.3 45.8
うち女性 14.7 15.8 15.2 13.2 13.4 13.8 14.9 12.8 13.2
うち49歳以下 21.9 23.0 22.1 20.8 19.3 18.5 18.4 18.4 16.9
うち女性 5.9 6.1 6.0 5.5 5.0 4.6 5.4 5.5 4.9
新規自営農業就農者 46.3 51.0 46.0 41.5 42.8 42.7 40.1 36.9 31.4
うち女性 11.5 12.0 10.7 8.9 9.7 9.9 10.6 8.0 8.8
うち49歳以下 13.2 12.5 11.4 10.1 9.9 9.2 8.4 7.2 6.5
うち女性 3.5 3.1 2.6 2.2 2.3 2.0 2.4 1.9 1.7
新規雇用就農者 7.7 10.4 10.7 10.5 9.8 9.9 10.1 11.6 10.6
うち女性 2.6 3.1 3.8 3.7 3.2 3.4 3.8 4.0 3.7
うち49歳以下 6.0 8.0 8.2 8.0 7.1 7.1 7.4 8.5 7.7
うち女性 2.0 2.5 3.0 2.8 2.3 2.3 2.6 3.1 2.7
新規参入者 3.7 3.6 3.4 3.6 3.2 3.2 3.6 3.8 3.9
うち女性 0.6 0.7 0.7 0.7 0.6 0.5 0.6 0.7 0.7
うち49歳以下 2.7 2.5 2.5 2.7 2.4 2.3 2.6 2.7 2.7
うち女性 0.4 0.5 0.5 0.5 0.4 0.4 0.5 0.5 0.5
引用:農業労働力に関する統計

つまり、未来を担う若者が一向に増えない中、年々高齢化していく現有戦力だけで支えられているのが、日本の農業の現状というわけです。

このままでは数十年後、今の平均年齢層の人たちの引退と共に、食糧需給が成り立たなくなってしまうでしょう。

現場では後継者不足について諦めの空気がある

農林水産省が2020年に発表した報告書「農林業センサス」によると、後継者を確保し、かつ5年以内に引き継ぐ予定の農業経営体は、全体の24%にとどまっています。

また、同年にJA紀州が実施した組合員アンケートでは、10年後の農業経営について、「分からない」および「縮小したい」という回答が計57%に達しました。

さらに、群馬県草津市が実施した農業の担い手についてのアンケートでは、人材確保のための取り組みについて、「特になし」との回答が69%に上っています。

これらのデータを見れば、多くの現役農家が、後継者の不在を半ば受け入れている現状が読み取れるでしょう。

農業は労働量と対価が見合っていない

まず前提として、農家の仕事は大変忙しいものです。

日々の農作業がそもそも重労働であることに加え、収穫シーズン等の繁忙期には夜明け前から動く必要があります。

そして、農業は単なる肉体労働ではありません。

作物の生産効率を上げるには、気候や農薬量などを記録する栽培管理が重要です。

また、事業である以上は、収入や経費などもしっかり記録・管理していく必要があります。

こうした農業経営の煩雑さも、若者にとって大きなハードルとなることでしょう。

では、これらの労働に対し、収入が見合っているのかというと、そうではありません。

2022年の農林水産統計(2023年公表)によると、農業を本業とする経営体の平均所得は、同年時点でおよそ363万円にとどまっています。

土地や農機などで生じる百万円単位の初期費用に加え、異常気象や自然災害などによる不作のリスクを考えると、とても釣り合っているとはいえないのが現実です。

食料自給率は横ばいが続く

農業が衰退していくにつれ、心配になってくるのは食料自給率の低下です。

実際、1965年に73%あった食料自給率(カロリーベース)は、2021年時点で38%にまで減少しています。

ただ、平成中期にはすでに同様の水準まで落ちており、そこから令和まで横ばいを続けているというのが正確な推移です。

農業人口の連続的な減少を考えれば、直近数年の食料自給率は維持されているといえるでしょう。

しかし、農林水産省が掲げる「2030年度までに食料自給率45%」という目標を達成するには、これから紹介する取り組みの成功、および業界課題の解決が欠かせません。

農業の人手不足を解決するための取り組み

農業の人手不足を解決するための取り組み

農業の人手不足解消に向けた取り組みとして、近年特に注目されているのは、AI産業と連携した「スマート農業」です。

また、技能実習制度や農業体験など、古くから実施されている対策も、着実に成果を挙げています。

以下で詳しく見ていきましょう。

スマート農業

スマート農業は、ロボットやAI技術などを活用し、農作業の簡略化や生産性の向上を目指す取り組みです。

農林水産省はスマート農業について、「2025年までに農業従事者のほぼ全員が、データに基づく実践」という目標を掲げています。

実際、スマート農業プロジェクトが2019年に発足して以来、実に217もの地区で実証実験が行われてきました。(スマート農業をめぐる情勢について

中でもトラクターやコンバインといった農機の無人化は、収穫や運搬など様々な農作業を簡略化する手段として、実用化の事例が増えてきています。

また、生育不良のチェックをはじめとした農場管理に、ドローンを活用する試みも盛んに行われています。

さらに、オンライン上で提供されている「WAGRI」のようなクラウドサービスは、農業経営を効率化する上で非常に効果的です。

収量予測や市場分析に基づく最適な営農計画を、多くの農家が実践できれば、平均所得の大幅な向上も容易に実現できることでしょう。

技能実習制度

技能実習制度とは、発展途上国の外国人を技能実習生として招き、提携先の企業等で最長5年にわたり雇用する制度です。

農業分野における外国人技能実習制度の試験受験者数は、2020年度だけで約2万人に上り、彼らは日本国内の若年層以上に業界の支えとなっています。

ただし、技能実習制度を利用するには、以下のステップを踏まなければいけません。

①いずれかの監理団体に登録
②団体仲介のもとで技能実習生の面接・採用
③実習計画を作成し、外国人技能実習機構の認定を取得
④技能実習生に代わり在留資格を申請

また、実習が始まった後も、「単純作業に従事させてはならない」など諸々の禁止事項を守る必要があります。

それでも、ひとたび受け入れ態勢を整えれば、安定した労働力の確保が可能となるため、検討する価値は大きいでしょう。

農業体験

農業体験は主に、収穫体験をはじめとした日単位の気軽なプランと、一連の生産工程を月単位で体験するプランに大別されます。

前者は、忙しい人や家族連れが主なターゲットであり、若年層に農業を宣伝するうえで非常に効果的です。

後者は、就農を検討する人が「本当に自分に合う仕事か」を確かめられるほか、単純に技術指導の機会としても重要です。

いずれも、生産者と消費者を結びつけ、農業に関心を持たせる機会として欠かせません。

また、近年はJAのグループ会社「農協観光」などが、農村の暮らしそのものを体験させる「グリーンツーリズム」を実施しています。

グリーンツーリズムは、従来の農業体験に加え、文化探訪や自然散策といった多様なプログラムを提供しているのが特徴です。

昨今の農業の人手不足は、農村地域の人口そのものが減っていることも一因です。

グリーンツーリズムは農業人口を増加に転じさせる上で非常に効果的な取り組みといえるでしょう。

農業の人手不足解消に向けた今後の課題

農業の人手不足解消に向けた今後の課題

農業の人手不足を解消するには、まだまだ多くの課題が残されています。

人材確保に向けた労働環境の改善や、農地ごとの生産性を向上させるための集約化などがその一例です。

以下で詳しく見ていきましょう。

労働環境の改善

人手不足解消のためには、求人活動だけでなく、労働環境の改善にも力を入れる必要があります。

農業の労働環境に関する問題のうち、まず問題なのは、労働基準法の一部、具体的には勤務時間や休日などの規定が適用されない点です。

こうした制度を笠に着て長時間労働を強いるやり方は、後継者候補の離脱率を高めるだけであり、農家にとって何のプラスもありません。

最低でも一般的な会社と同じように、労働基準法の範囲で勤務条件を設定し、社会保険等にもしっかり加入しましょう。(1日8時間労働を想定する場合、週休2日+休憩1時間など)

また、スマート農業の積極的な導入により、業務の負担そのものを減らすことも重要です。

他にも、研修制度や業務マニュアルの完備、キャリアパス(※)の明確化など、働き手を定着させるためにできることはたくさんあります。

(※)目標とする職位に昇進するまでの流れ、およびその間に積むべき技術や経験

小規模農地の集積・集約化

これまで日本の農業は、複数の離れた農地を所有・経営する「零細分散錯圃(さくほ)型」が主流でした。

自然災害のリスクを分散できるメリットがある一方、農機の移動をはじめとした農作業の効率が著しく下がることから、スマート農業の普及において大きな障壁となっています。

そこで近年推し進められているのが、小規模農地や耕作放棄地の集積・集約化です。

この取り組みは、都道府県の公社やJAなどの組合が仲介し、農地の一括借入および再配分を行うというものです。

各耕作者の作業範囲を1か所に固めれば、農作業の効率は大幅に上がり、少ない人手でも業務を回しやすくなるでしょう。

北海道や東北ではすでに集積・集約化が進んでおり、2004年時点で計10,000ha以上の農地を合理化することに成功しています。(参考:担い手への農地の利用集積の現状と課題

今後は、都市部の住民が農地の所有権だけを相続するケース、いわゆる不在村地主が増えてくることを念頭に、農地利用の調整をより効率化する仕組みが求められるでしょう。

スマート農業に適応した人材の確保

スマート農業に用いられるロボットやAIシステムを扱うには、ICT(情報通信技術)に関する一定の知識が必須です。

スマート農業を一般化させるには、今いる農家に普及させること、および未来の農家に習得させることが欠かせません。

農林水産省は全国の農業学校を対象に、オンライン講座の作成や演習用設備の導入、地域と連携した現場実習の実施などを推進しています。

また民間レベルでも、秋田県立大学が展開しているスマート農業指導士育成プログラムのように、メーカーと生産者の間に入る「知識通訳」を育てる取り組みが始まっています。

スマート農業のシェアを今後拡大させていくには、それと同じくらい、教育体制も絶えず拡充させていく必要があるでしょう。

生産者の情報ニーズを満たす

農業の商売としての成功率を高めるには、生産者が必要とする情報の提供、および生産者自身が行う情報発信の手助けが欠かせません。

まず、提供すべき情報に関しては、対象農作物の市場価格や購買傾向、および消費者からのフィードバックなどが挙げられます。

多くのニーズが反映された農作物を、消費量の多い地域などに集中して出荷すれば、より効率的に収益を向上させられるでしょう。

一方、生産者側から発信すべき情報は、食の安全や生産者の思い、食べ頃に調理例など色々と挙げられます。

各種メディアを通じて、これらの情報をターゲット層に届けられれば、より消費者を購買行動に導きやすくなるでしょう。

まとめ

以上、農業の人手不足をめぐる現状や解決策について紹介しました。

本記事の内容をまとめると以下の通りです。

  • 農業を主業とする人の数は2015~2023年の間に約60万人減っている上、現役農家の多くは高齢者。食料自給率も長年40%を下回っている
  • 農業の人手不足を解消するには、スマート農業の導入によって少人数でも作業を回しやすくしつつ、技能実習制度や農業体験を利用して労働者を呼び込むのが効果的
  • 若年農家が増えない背景には、重労働でありながら収入が不安定というイメージが関係しているため、求人にあたっては労働環境の改善が必要不可欠
  • スマート農業を今後さらに普及させるには、ICTに長けた農業従事者の育成、および小規模農地の集積・集約化が求められる

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