企業が外国人技能実習生を受け入れる方法は、2種類あります。1つ目は日本の企業が直接技能実習生を受け入れる「企業単独型」、2つ目は事業協同組合等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れ、各企業での技能実習をサポートする「団体監理型」です。
来日した外国人に行う入国後講習はどちらの受け入れ方式でも必要となり、原則として「受け入れ企業の実習実施者」または「監理団体」が講習を担当する必要があることをご存知でしょうか?
しかし、入国後講習は複雑で、正しく理解しておかないと認定取り消し処分にまで発展してしまうことも。
この記事では、「知らなかった」では済まされない入国後講習について、厚生労働省が定める『技能実習制度 運用要領(令和6年4月版)』をもとに、入国後講習をやさしく解説します。
入国後講習とは?その目的と重要性
入国後講習の重要性
入国後講習とは、技能実習生が日本での生活や実習活動に円滑に適応するために日本語やマナー、法律などを学ぶための重要な期間です。
技能実習生は、来日する際に「技能実習1号」としての在留資格を取得し、「入国後講習」を必ず受けることが法定義務とされています。
そのため入国後講習の実施には、受け入れ企業である実習実施者と監理団体の双方に厳格な基準が定められており適切な実施が行われていない場合、最悪認定や許可の取り消しという処罰を受けてしまうことがあるため、非常に重要です。
実習実施者が適切に入国後講習を実施しておらず、認定が取り消された場合、次の処罰を受けることになります。
- 計画の認定が取り消された事実が公表され、事業者名が広く知られることになる。
- 取り消しを受けた実習実施者が受け入れている全ての実習生は実習を継続できなくなる。
- 取り消しを受けた日から5年間、新たな技能実習計画の認定が受けられなくなる。
監理団体が適切に入国後講習を実施しておらず、許可が取り消された場合、次の処罰を受けることになります。
- 許可が取り消された事実が公表され、事業者名が広く知られることになる。
- 許可を受けた監理団体が受け入れている全ての実習生は実習を継続できなくなる。
- 取り消しを受けた日から5年間、新たな技能実習計画の認定が受けられなくなる。
ただし、「企業単独型」や「監理団体型」のどちらの受け入れ方式も、日本語学校や入国後講習を専門に行っている研修センターなど、適切な者に委託して講習を実施することが可能。
入国後講習の目的
入国後講習の目的は、技能実習生が日本の法令や社会規範、労働環境について理解を深め、技能実習生の健康や安全を保護することです。また、日本語学習を通じて、日常生活や配属先でのコミュニケーション能力を向上させることも重要な目的の一つとなっています。
入国後講習の具体的な内容と流れ
入国後講習の授業内容は多岐にわたりますが、外国人技能実習機構が定める運用要項には次のような科目が含まれている必要があると定められています。
- 日本語
日常生活や職場でのコミュニケーションを円滑にするための日本語学習。技能実習が行われる現場では、日本語による指導やコミュニケーションが行われるため、技能実習生は一定の日本語能力を身につける必要があります。
- 本邦での生活一般に関する知識
日本での生活に必要な知識やスキルの学習。例えば、日本の法律や規則、社会生活上のルールやマナーを守る必要があり、自転車の乗り方、日本の交通ルール、公共機関の利用方法、買い物の仕方、ゴミの出し方、銀行・郵便局の利用方法、自然災害への備えなど。
- 出入国又は労働に関する法令の規定に違反していることを知ったときの対応方法
その他技能実習生の法的保護に必要な情報(専門的な知識を有する者が講義を行うものに限る)。技能実習法令、入管法令、労働関係法令に関する知識、違反の申告・相談先、労働基準監督署等の行政機関への連絡方法、賃金未払に関する立替払制度、医療保険の手続、男女雇用機会均等法、労働基準法、育児・介護休業法、その他必要な情報。
- その他、本邦での円滑な技能等の修得等に資する知識
日本での生活や技能修得に役立つ知識全般。また座学による技能実習生が従事する業務内容の理解、機械の構造や操作、安全衛生教育、労働災害の防止、健康確保など。
入国後講習の実施時間数
入国後講習は、技能実習1年目の活動予定時間の1/6以上の講習を実施することが必須となります。例えば、1年間の活動時間を1,920時間(月160時間×12ヶ月=1,920時間)と技能実習計画で予定した場合、その1/6の「320時間」以上の入国後講習を受けてから受け入れ企業先での実習を始める必要があります。
しかしながら、日本に入国する前の6ヶ月以内に、1ヶ月以上かけて160時間以上の講習を受けた場合、入国後講習は活動予定時間の1/12以上の実施で良いとされています。
例えば、1年間の活動予定時間を1,920時間とすると、入国前講習を実施して日本に来た場合、1,920時間の1/12である「160時間」以上が入国後講習に必要な時間となります。
どちらの場合でも、講習の実施にあたっては、1日8時間以内、かつ週5日以内で行うことが基本です。
また入国後講習では、すべての科目をカバーする必要がありますが、各科目の時間数やその割合については、運用要領では定められておらず、技能実習生の個々の能力や修得すべき技能に応じて適切に決めることができるとされています。
しかし、①日本語・②法的保護に必要な情報については、次のような条件があるため注意が必要です。
①日本語
技能実習生の日本語能力が高い場合や、日本語能力試験等に合格している場合は講習時間を短縮することができますが、入国後講習に必要な総時間を減らすことはできません。
②法的保護に必要な情報
技能実習生の法的保護に関する講義時間が1〜2時間などの短い場合は、不十分であると判断されることがあり、場合によっては講義時間を増やす必要があります。運用要領で掲げられている目安としては、技能実習法令・入管法令・労働関係法令など、各項目について少なくとも2時間ずつ実施し、合計8時間とされています。
※ただし介護職種の場合は、「円滑な技能等の修得等に資する知識」の講習として、介護に関する基礎的な事項を学ぶ課程(介護導入講習)を設ける必要があり、合計で42時間以上行う必要があります。
入国前講習のオンライン実施
令和3年2月から、入国後講習の総時間を短縮できる入国前講習は新型コロナウイルスの影響による緩和措置として、特別にオンラインでの実施を認められていました。
しかし令和6年4月11日付けで、運用要領が改正され、正式にオンラインでの実施が認められるようになりました。
また座学で行われることに照らし、机と椅子が整えられた学習に適した施設で実施する入国後講習も、入国前講習と同様に、双方向に意思疎通ができることを前提として、オンラインでの実施が可能です。
なお、監理団体等においては、その内容が入国後講習に相当すると認めたものであること、実施方法や実施した事実が客観的に確認できるよう、記録する必要があります。
入国後講習の5つの注意点
入国後講習を実施するうえで、監理団体や受け入れ企業が気を付けなければいけない点がいくつかあります。特に問題になりやすい項目を5つ紹介します。
①使用する教材について
使用する教材は基本的に任意ですが、「本邦での生活一般に関する知識」および「法的保護に必要な情報」については、必ず技能実習生手帳を教材の一つとして使用します。
また、機構で行われている母国語相談の利用方法についても伝える必要があります。
母国語相談については外国人技能実習機構のホームページを参照してください。
②講習手当の支払いについて
団体監理型の技能実習では、講習期間中、技能実習生に係る雇用契約が未だ発効しておらず賃金収入がありません。監理団体は、講習に専念できるよう技能実習生に対して日本での生活上の必要費用として講習手当の支払いが必要です。
講習手当の支払いに関する留意点は次のとおりです。
(ア)講習手当の額提示
技能実習生の入国前に、講習手当の額を本人に示さなければなりません。また技能実習計画認定時において、必要書類である「技能実習の期間中の待遇に関する重要事項説明書」では、講習手当の額、講習期間中の食費支給の方法などの記載が求められています。
(イ)支払いの確実性
講習手当の支払者は監理団体であり、監理団体は定められた支給日(講習期間中のなるべく早期)に全額を、技能実習生に直接かつ確実に支払う必要があります。支払いに当たっては、技能実習生から支払簿に受領印(または受領の署名)を徴する必要があります。
(ウ)手当額の決定
講習手当の額については、食費や生活上の諸雑費等を考慮し決定する必要があります。講習への出席状況に応じて手当を増減するなどの取扱いは適切ではなく、講習中の宿舎は、監理団体または実習実施機関が無償で確保しなければなりません。
(エ)控除の禁止
講習手当から監理団体等が負担すべき費用を控除してはならず、また講習手当から強制的に貯金させてはなりません。
(オ)不正行為の防止
監理団体が支払うべき講習手当の一部または全部を支払わない場合には、不正行為(受入れ停止期間5年)として認定されることがあります。
③不適切な方法による技能実習生の監理について
(ア)外出や所持品の制限の禁止
監理団体や実習実施機関は、技能実習生の失踪等問題事例の発生の防止を口実として、技能実習生に対し、宿舎からの外出を禁止したり、旅券や在留カードを預かったりすることは禁止されています。
人権侵害の問題が生じかねないので外出の禁止をするべきではありませんが、社会通念上認められる範囲内での門限の設定や休日における外出届制は差し支えないとされています。
また、携帯電話の所持や来客との面会を禁止すること等により親族や友人等との連絡を困難にさせることも不適切な方法による監理に当たるため注意が必要です。
(イ)雇用関係の留意点
入国当初に監理団体が実施する講習期間中は、実習実施機関と技能実習生との間に雇用関係はないため、実習実施機関が技能実習生に対して当該講習の受講について将来の使用者として指揮命令をすることはできません。
④宿泊施設の要件
入国後講習期間中、技能実習生が宿泊する施設には以下の要件が定められています。
また宿泊施設が基準以上であることを技能実習計画の認定を受ける際に「技能実習生の報酬・宿泊施設・徴収費用についての説明書」にて申告する必要があります。
申請時には宿泊施設の見取り図はもちろんのこと、写真なども提出を求められる場合があるため、宿泊施設を事前に準備する場合は写真撮影をしておくとよいでしょう。
- 適切な土地であること(土砂崩れの危険がない、危険物を取り扱っている場所の近くでない等)
- 適切な消火設備の設置されていること
- 寝室は1人あたり4.5㎡以上を確保されていること
- 私有物収納設備(鍵付きで持ち運べない金庫等)が設置されていること
- 食堂や炊事場の衛生管理がされていること
- 就眠時間を異にする2組以上の技能実習生がいる場合は、寝室を別にする措置を講じていること
⑤書類の作成と保存
入国後講習は実施前に『入国後講習実施予定表』、実施後に『入国後講習実施記録』を作成しなければなりません。またこれらは保管義務がある帳簿となっているため、ファイルなどにわかりやすく保管する必要があります。
入国後講習を適切に実施しなかったらどうなる?
入国後講習を適切に実施しなかった場合、技能実習生が日本の生活や労働環境に適応できず、さまざまな問題が生じる可能性があります。例えば、法令に関する知識不足から法的トラブルに発展したり、安全教育が不十分なために労働災害に遭ったりするリスクがあります。
最悪なケースとしては、監理団体の許可取り消しや、技能実習計画の認定が取り消しになる場合があります。
外国人技能実習生の日本語能力が不十分だと、職場でのコミュニケーションが円滑にいかず、業務に支障をきたすこともあります。また、入国してから半年後に受ける日本語学科試験に不合格となった場合、技能実習2号になれず母国に帰国せざる負えなくなり、受け入れ企業先と技能実習生の双方に悪影響を与えてしまいます。
また多く受け入れられている介護職種などでは、基本的な入国後講習に加えて、介護導入講習の実施などの固有要件が求められているため入国後講習が正しく行われていない場合、適切な介護サービスを提供することが難しくなります。
そのため、必ず入国後講習は適切に実施しましょう。
まとめ
入国後講習は母国を離れて不安になっている技能実習生が、日本の法令遵守や安全教育、日本語学習などを学び、安心して日本で生活するために必要不可欠です。
企業や監理団体は、技能実習生が十分な入国後講習を受けられるよう、適切な教育環境を提供することが求められます。技能実習終了時には、特定技能へ移行するほどの優秀な人材になる可能性があります。
そのため、入国後講習終了後も定期的な研修や健康診断を実施し、技能実習生の継続的な技能成熟と安全を確保することが求められます。
入国後講習は、講習を行う機関や日本語を教える講師が所属している講習センターなどに委託が可能なので、不安な方は、ぜひ相談してみるのもよいかもしれません。