育成就労制度は、これまでの技能実習制度に代わる新たな外国人材の受け入れ制度です。制度の施行は2027年に予定されており、現在はその準備期間として関係機関が体制整備を進めている段階です。
この育成就労制度は、人材育成と長期雇用を目的としているのが特徴で、特定技能制度への円滑な移行を視野に入れて設計されています。
本記事では、育成就労と特定技能の関係や制度の目的、受入れ企業が知っておくべきポイント等をわかりやすく整理し、実務に役立つ情報をお届けします。
育成就労制度とは?技能実習制度からの変更点と目的

育成就労制度は、「人材育成」と「人材確保」を柱とし、従来の技能実習制度の課題を解消しつつ、特定技能制度への円滑な移行を目指す制度です。
ここでは、育成就労制度ができた背景や目的、仕組み等を詳しく見ていきます。
技能実習制度の発展的解消と新制度の誕生
技能実習制度は1993年に創設され、当初は開発途上国への技能移転を目的としていました。
しかし実際には、労働力確保の手段として活用されることが多くなり、制度の本来の趣旨と乖離しているとの批判が根強くありました。
特に問題視されていたのは以下の点です。
- 技能実習生の人権侵害(長時間労働、低賃金、自由な転職の制限)
- 実質的な「安価な労働力」としての利用
- 技能移転の実効性に疑問
これらを背景に、政府は制度の抜本的見直しに着手し、数年に及ぶ検討を経て2024年「育成就労制度」の導入に踏み切りました。
2024年6月可決・成立した法改正の概要
新たに創設された「育成就労制度」は、出入国管理及び難民認定法の改正を経て、2024年6月に国会で可決・成立しました。
この改正の要点は以下の通りです。
| 項目 | 改正内容 |
|---|---|
| 制度名 | 技能実習制度を廃止、「育成就労制度」創設 |
| 在留資格 | 新たに「育成就労」資格を設置 |
| 転籍 | 一定の条件下で転籍が可能に |
| 管理体制 | 監理団体を「監理支援機関」に移行し、監督強化 |
| キャリアパス | 特定技能1号への移行を明確に制度化 |
| 対象分野 | 特定産業分野に限定 |
この法改正により、労働力の確保だけでなく、長期的な人材育成と戦略的雇用が可能な制度へと進化したことが最大のポイントです。
新制度の二本柱:「人材育成」と「人材確保」
育成就労制度は、外国人材に適正な環境で働きながらスキルを身につけてもらい、将来的には日本での定着や活躍も視野に入れるという考え方のもと、次の二つの柱で構成されています。
- 人材育成
-
- 労働と教育を両立させたカリキュラムを企業が提供
- 定期的な日本語教育や技能訓練の実施が義務付けられる
- 人材確保
-
- 労働力が不足している分野の人材確保
- 特定技能制度との連携により、長期的雇用を前提とした受入れ
このように、従来の「実習」から「育成」へと主軸を移したことが最大の特徴です。
就労を通じた技能習得の促進
育成就労では、単に業務をこなすだけではなく、体系的なスキルアップが求められます。
制度として、企業は就労者の「OJT(On the Job Training)」と「Off-JT(講義・研修)」の両方を提供しなければなりません。
また、以下のような取り組みも義務化されます。
- 日本語教育の定期的な実施
- 業界団体による評価試験の受験
- 就労中の評価記録・報告の義務
こうした措置により、日本で継続的に活躍できる外国人材の育成が本格化します。

「育成就労」と「特定技能」の関係

育成就労制度は、特定技能制度への移行を前提としており、育成就労で得た経験が、特定技能制度へのスムーズな移行に直結するように設計されています。
特定技能へのキャリアパスを明確化
育成就労は、「特定技能1号」への移行を前提としています。
そのため、外国人本人にとっても、受け入れ企業にとっても、キャリアの見通しを立てやすくなっています。
実務経験を積みながら、日本語と専門技能を習得
試験合格を経て、即戦力として本格的に就労
対象分野では熟練した人材として長期在留が可能
このように、段階的なキャリアパスを前提とする制度設計が、これまでの技能実習との最大の違いといえます。
3年間で特定技能1号レベルへの育成
育成就労制度の3年間で、以下のような到達目標が設定されています。
| 項目 | 到達目標 |
|---|---|
| 日本語能力 | JLPT N4相当以上の取得 |
| 技能水準 | 分野別の特定技能評価試験への合格 |

育成就労から特定技能への移行要件
特定技能1号へ移行するには、以下の条件を満たす必要があります。
| 項目 | 要件内容 |
|---|---|
| 日本語能力 | JLPT N4以上またはJFT-Basic合格 |
| 技能水準 | 所属分野の「特定技能評価試験」に合格 |
育成就労の対象分野
育成就労の対象分野は、特定技能1号と同様、深刻な人手不足が続く職種に限定されています。
2025年現在、育成就労の対象となる分野は、特定技能1号の16分野と同じになる予定です。
特定技能1号の分野は以下の通りです。
- 介護
- ビルクリーニング
- 工業製品製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 自動車運送業
- 鉄道
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 林業
- 木材産業

育成就労制度の注意点

育成就労制度の導入は、企業の制度対応や人材戦略に大きな影響を与えることが予想されます。
採用から育成、転籍リスクへの備えまで、企業側にはこれまで以上に計画的な運用が求められます。
育成就労外国人の「転籍」について
育成就労制度では、従来の技能実習制度とは異なり、一定の条件下で外国人本人の「転籍」が可能となっています。
これまでの制度では、原則として実習先を変えることは許されておらず、それが劣悪な労働環境の温床となっていたという批判が多くありました。
育成就労制度ではこうした問題に対応し、外国人が不当な扱いを受けている場合や、企業の経営状況が悪化した場合など、やむを得ない事情がある場合は他の受け入れ企業へ移ることが認められます。
この制度変更により、外国人材の権利や保護が強化される一方で、受入れ企業にとってはせっかく採用・育成した人材が途中で他社に転籍してしまうリスクが生じることになります。
たとえば、日本語教育や技能訓練などに時間とコストをかけたにもかかわらず、他社に移られてしまえば、企業の投資が無駄になってしまうケースもあるでしょう。
また、人材流出が頻発すれば、職場の安定性や育成体制自体にも悪影響を及ぼしかねません。
そのため、企業としては、外国人材が自社で安心して長く働きたいと思えるような職場環境や支援体制を整えることが重要です。
適切なコミュニケーション、キャリアパスの明示、生活面での支援などを通じて、信頼関係を築いていくことが、転籍のリスクを最小限に抑える対策といえるでしょう。
監理体制:監理団体から監理支援機関へ
育成就労制度の導入に伴い、これまでの技能実習制度を支えてきた「監理団体」は、その役割と体制を大きく見直すことになりました。
新制度では、「監理支援機関」という名称の機関が設置され、これまで以上に強化された監督機能と支援機能を担います。
監理支援機関になるためには、新たに認定を受ける必要があります。
監理支援機関は、外国人労働者の受け入れ企業が適正に育成計画を実施しているかを定期的に確認するほか、外国人本人の就労・生活環境に関する相談対応やトラブル対応も行います。
これにより、外国人労働者が安心して働ける環境を維持するだけでなく、受け入れ企業に対しても、教育や支援体制の構築を促すことが目的です。
企業にとっては、信頼できる監理支援機関との連携体制を前もって構築することが、制度活用の成功に直結するといえるでしょう。
制度の施行時期と今後のスケジュール
育成就労制度は、2024年6月に関連法が国会で可決・成立し、現在はその本格施行に向けた準備が進められている段階です。
2027年中の制度施行が予定されています。
2025年現在は、政府によって分野別運用方針の策定が進められている段階です。
また、送り出し国との協定(MOC)に関する交渉や文書作成も並行して行われており、制度の実務的な枠組み作りが本格化しています。
2026年には、企業や監理支援機関が事前に必要な申請(たとえば許可取得など)を行えるようになる見込みです。
こうした準備期間を経て、2027年には改正法が正式に施行され、育成就労制度が運用開始される予定です。
したがって、企業は今後の動向を注視しつつ、監理支援機関との連携や人材育成計画の見直し、日本語教育の体制構築など、必要な準備を前倒しで進めていくことが求められます。
制度施行までにはまだ時間がありますが、余裕をもって対応を進めることが、スムーズな制度移行と人材確保の鍵となるでしょう。
企業が育成就労を活用するメリット・デメリット

育成就労制度は、企業にとっては戦略的な人材確保の手段となり得る一方で、制度対応に向けた準備やコストも発生します。
企業が育成就労を活用するメリットとデメリットは、以下のような点が挙げられます。
メリット
- 人材育成を通じた中長期的な人材確保
育成就労制度の最大の利点は、外国人材を長期的な戦力として育てられることにあります。
育成期間の3年間で日本語や技能を身につけた後、特定技能1号に移行すれば、さらに5年間の継続雇用が可能となります。
これにより、最大8年間にわたり同一人材を確保できる仕組みが整っており、人材不足に悩む現場の安定にも貢献します。
- 特定技能へのスムーズな移行による継続雇用
育成就労制度は、特定技能制度への移行を前提とした設計になっています。
そのため、制度の区切りによって雇用が途切れる心配がなく、育てた人材をそのまま長期的に活用することができます。
採用と育成にかけたコストを無駄にせず、継続的な業務遂行に結びつけられる点は大きなメリットといえます。
- コンプライアンス強化によるリスク低減
育成就労制度では、監理支援機関の関与や報告義務が強化されており、企業による制度の適正運用が前提となっています。
この体制により、不正受け入れやトラブルが起きにくくなり、結果として企業の法令順守や社会的信用の維持にもつながります。
安心して外国人材を受け入れたい企業にとって、制度の透明性は重要なポイントです。

デメリット
- 制度変更に伴う情報収集と対応の必要性
育成就労制度は新しい制度であり、今後も運用ガイドラインの見直しが行われる可能性があります。
企業側は常に最新情報を把握し、変更内容に応じて社内対応を進める必要があります。
制度を正しく理解し的確に実行するためには、人事部門や担当者に一定の負担がかかります。
- 転籍による人材流出のリスクと対策
育成就労では、一定の条件下で外国人本人の転籍が認められており、技能実習制度に比べて人材の流動性が高くなります。
そのため、企業が育てた人材が他社へ移る可能性もあります。
特に、転籍が発生すれば、教育に投じた時間やコストが無駄になることも考えられます。
- 日本語能力や技能レベルの育成コスト
育成就労では、企業に日本語教育や技能習得支援の実施が求められます。
これは、OJTだけでなく、外部講師の活用や教材費、研修時間の確保など、目に見えるコストとして企業負担につながる場合があります。
短期的には負担と感じられることもありますが、中長期的には人材定着と即戦力化を実現するための重要な投資と位置づけることが必要です。
育成就労と特定技能制度のまとめ

育成就労制度は、技能実習制度の課題を見直し、特定技能制度と一体化する形で設計された新たな外国人材育成の枠組みです。
外国人材が3年間の育成期間を経て、特定技能へ円滑に移行できるよう制度が整備されており、企業にとっては計画的に即戦力人材を育てるチャンスとなります。
転籍の可能性や教育コストといった課題はありますが、それを上回る長期的な雇用安定と人材定着の効果が期待できます。
制度の本格施行は2027年の予定です。今のうちから採用戦略や社内体制の見直しを進めることが、将来的な人材競争を勝ち抜くポイントとなるでしょう。




