日本で働くミャンマー人が増える中、日本語学習のサポートはますます重要になっています。
特定技能や技能実習制度などにより、日本で働きながら日本語を学ぶミャンマー人は多くいますが、言語の壁は依然として大きな課題です。
この記事では、ミャンマーから来た外国人の日本語学習をサポートするための情報を紹介します。

ミャンマー人にとって日本語は難しい?

ミャンマー人にとって、日本語の習得は簡単ではありません。
文法構造が似ているというメリットはあるものの、文字の多さや発音、敬語の使い分けなど、習得において大きな壁が存在します。
ここでは、ミャンマー語と日本語の似ている点や、多くのミャンマー人が苦労するポイントを紹介します。
ミャンマー語と日本語の共通点
ミャンマー語と日本語はどちらも、主語(S)+目的語(O)+動詞(V) の語順(SOV型)を基本としています。
そのため、ミャンマー人が日本語を学ぶ際は「語順で混乱しにくい」というメリットがあります。
- 例文1:私はごはんを食べます。
-
ミャンマー語:ကျွန်တော် ထမင်း စားတယ်။
- ကျွန်တော်(チャノー):私(男性)
- ထမင်း(タミン):ごはん
- စားတယ်(サーデー):食べます
- 例文2:彼は本を読みます。
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ミャンマー語:သူ စာအုပ် ဖတ်တယ်။
- သူ(トゥー):彼/彼女
- စာအုပ်(サオウッ):本
- ဖတ်တယ်(パッデー):読みます
- 例文3:私は日本に行きます。
-
ミャンマー語:ကျွန်တော် ဂျပန် သွားတယ်။
- ကျွန်တော်(チャノー):私(男性)
- ဂျပန်(ジャパン):日本
- သွားတယ်(トワーデー):行きます
ミャンマー人が日本語で苦労するポイント
ミャンマー語と日本語には共通する点もありますが、異なる点も多いです。
助詞の使い分けが難しい
「は」と「が」、「に」と「で」、「へ」と「に」など、日本語の助詞は微妙な意味の違いがあり、文法的な理解だけでなく感覚的な使い分けが必要です。
ミャンマー語にも意味を補助する語(助詞的な役割の言葉)はありますが、種類は少なく、なくても意味が通じることが多いです。
たとえば、「私はごはんを食べます」のミャンマー語では、助詞は使っていません。
ကျွန်တော် ထမင်း စားတယ်。
(チャノー タミン サーデー)
「チャノー(私)」+「タミン(ごはん)」+「サーデー(食べます)」という語順だけで、「誰が・何を・どうするか」が伝わります。
敬語の種類が多くて混乱しやすい
日本語には「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」があり、相手や状況に応じて適切な表現を使い分ける必要があります。
ミャンマー語にも敬語がありますが、日本語のように尊敬語・謙譲語・丁寧語が明確に分かれているわけではありません。
ミャンマー語の敬語は、主に語尾に敬語表現をつけることで丁寧さを表現するのが特徴です。
- 男性が話すとき → ရှင်(シン)
- 女性が話すとき → ကမ္ဘာ(カミャ)
これらを文末につけるだけで、話し方が丁寧になります。
発音の違い
ミャンマー語にはない音の組み合わせが日本語には多いです。
- 「ん(撥音)」+母音・特定の音の組み合わせ
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ミャンマー語には、「ん」で終わる音(撥音)が単語の末尾に来ることはありますが、「ん」の後に母音が続く音の組み合わせは存在しません。
例:
- さんえん(3円)
- ぜんいん(全員)
- さんまんえん(三万円)
ミャンマー人は「ん+母音」を1つの母音として処理してしまいがちで、 「さんえん」が「さえん」、「ぜんいん」が「ぜいいん」のように聞こえてしまうことがあります。
- 拗音(きゃ、しゅ、ちょ など)
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ミャンマー語には、日本語のような子音+「や・ゆ・よ」の小さな母音を組み合わせた音(拗音)がありません。
例:
- きゃく(客)
- しゅくだい(宿題)
- ちょっと(少し)
「きゃく」が「きやく」、「ちょっと」が「ちよっと」に聞こえてしまうこともあります。
- 母音の長短の違い
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ミャンマー語にも声調(トーン)はありますが、日本語のように母音の長さで意味が変わる言語ではありません。
例:
- おばさん(叔母さん) vs おばあさん(祖母)
- ここ(ここ) vs こうこう(高校)
ミャンマー人は母音の長さの違いに慣れていないため、意味の違いに気づきにくくなります。

ミャンマー語で学べる日本語教材

学習初期のミャンマー人にとって、日本語の説明を日本語だけで理解するのは大きな負担になります。
そのため、ミャンマー語訳付きの教材やアプリは非常に役立ちます。
特に語彙や基本会話を学ぶ段階では、母語での解説があることで理解が深まり、学習効率が上がります。
『みんなの日本語 初級I 第2版 翻訳・文法解説 ビルマ語版』

日本語学習の定番教材『みんなの日本語 初級I』に対応した、ビルマ語(ミャンマー語)話者向けのサポートブックです。
各課の語彙や例文、文法の解説がビルマ語で丁寧に訳されており、日本語初心者でも安心して学習を進められます。
日本語だけでは理解が難しい部分を、母語で補える構成になっており、学習の理解度を高めたい学習者におすすめです。
『マレーシア語・ミャンマー語・フィリピノ語版 日本語単語スピードマスター STANDARD2400』

日本語の初級後半から中級レベルを対象に、日常生活や仕事で使われる基本単語をテーマ別に収録しています。
ミャンマー語を含む3か国語による訳付きなので、母語で意味を確認しながら学べるのが大きな特長です。
例文やリスニング用の音声も充実しており、独学にも教材にも最適な1冊です。
『ミャンマー語話者に教える: 日本語教師読本 35』
ミャンマー人学習者に日本語を教える日本語教師のための実践的な指導ガイドです。
ミャンマー語と日本語の言語的な違いや、学習者がつまずきやすいポイントを詳しく解説しており、指導法に悩む教師にとって非常に参考になります。
著者自身の豊富な現場経験に基づいたアドバイスや具体的な事例が多く掲載されています。

ミャンマー語で学べるYoutube
Japan For Myanmar

\ YouTubeはこちら /
Japan For Myanmarは、ミャンマー語話者のために日本語を学べるコンテンツを提供しているYouTubeチャンネルです。
日本で生活・就労するミャンマー人を主な対象に、日常会話、基本単語、職場で使える表現などをミャンマー語でわかりやすく解説しています。
動画はシンプルで見やすく、日本語初心者でも無理なく学べる構成になっており、特に技能実習生や特定技能で来日する方に役立つ内容が充実しています。

ミャンマー人の日本語学習を支援する方法

定期的な日本語学習の時間を確保する
- 短時間でも“継続”することが学習のカギ
長時間の勉強は難しくても、10分でも毎日日本語に触れることが重要です。
短くても「継続」することが語学習得には不可欠で、業務時間のスケジュールに取り入れるのもおすすめです。
特に朝礼の前や終業前など、日課に組み込むと習慣化しやすくなります。
- 現場と連携した学習機会の設計
業務内容に合わせて、現場で使う日本語を学べる学習内容を設計するのも効果的です。
例えば建設現場であれば「ヘルメット」「危ない」「下がってください」など、日常的に耳にする言葉を中心に指導することで、即戦力としての成長にもつながります。
生活と結びつけて日本語を教える
- 場面別の語彙強化が定着に有効
ミャンマー人の学習者にとって、日本語は教材の中だけでなく実生活で役立つ言葉として学ぶことが理想的です。
買い物・病院・銀行・交通など、場面ごとに必要な単語や表現を整理して教えると、日常生活の不安も軽減できます。
- ロールプレイや体験型学習で実践力を養う
言葉を覚えるだけでなく、実際の会話の中で使う練習(ロールプレイ)を取り入れると、理解が深まります。
コンビニでの会話練習や、病院に行くときのロールプレイなど、体験を通して自然に覚えられるようにしましょう。
フィードバックや声かけを丁寧に行う
- 正解よりも“努力”を認める姿勢を持つ
ミャンマー人の多くは、間違いを恥ずかしく思う文化的傾向があります。
そのため、「正しく言えたか」よりも「一生懸命伝えようとしたか」に注目してフィードバックすることが、学習意欲を高めることにつながります。
- ミスを責めずに“学習のチャンス”と伝える
間違った表現を指摘するときは、「それは違います」ではなく、「こう言うともっと伝わりやすいですよ」といった言い回しを使うと、受け入れやすくなります。
安心して学べる環境づくりが大前提です。
ある介護施設では、週2回、業務時間内で30分の学習時間を設け、実際の業務を想定した実践的な練習を行いました。
例えば、介護の現場でミャンマー人スタッフが日常的に行う重要な業務の一つに、「移乗介助」があります。
利用者さんをベッドから車いすへ、あるいはその逆へと安全に移動させるこの作業には、適切な身体動作とともに、声かけや説明といった日本語でのコミュニケーションが不可欠です。
まず、介助の一連の流れを「ステップごと」に分け、ひとつひとつの動作に対応する日本語フレーズを丁寧に紹介。たとえば、利用者さんを起こすときには「立ちますよ」、立ち上がった後には「車いすに移ります」、座る動作では「ゆっくり座ってください」といった言葉を覚えてもらいます。
理解を助けるために、事前に日本語フレーズ+ミャンマー語の訳+イラスト写真が入った資料を配布しました。資料には、各フレーズの発音をカタカナでも表記し、ミャンマー語話者にとって読みやすいように工夫。まず資料を見ながらフレーズの意味や使い方を確認し、その後実際のベッドと車いすを使って、ロールプレイ形式で練習を行いました。
練習では、一人ひとりが「介助する役」と「利用者役」に交代で取り組み、体の動かし方と日本語の声かけを同時に練習。見守る日本人スタッフや先輩介護職員がそばで優しくサポートしながら、必要に応じて「もっとやさしい言い方」や「自然な声のトーン」もアドバイスしました。
たとえば、「立ちますよ」がどうしても言いにくい人には「たちます、ね」や「いっしょに、たちましょう」といった、言いやすく丁寧な言い回しを教え、「言葉に気持ちをのせる」ことの大切さも一緒に伝えました。
また、学習者がスムーズにフレーズを使えたときや、笑顔で自然に声かけができたときには、その場で褒めて励ますようにしました。このようなポジティブなフィードバックは、間違いを恐れることなく、積極的に日本語を使おうとする気持ちを育てるうえで大きな効果がありました。
学習後には、参加者の間では「使える日本語が増えてきた」という実感が芽生えていきました。また、ミャンマー語で事前に内容が理解できることで、安心して実践に集中できたという声も多く聞かれました。
このように、「動作+日本語」をセットで覚えるスタイルは、介護現場での即戦力となるだけでなく、利用者との信頼関係づくりにもつながる重要なステップです。

ミャンマー人の日本語学習|まとめ

ミャンマー人の日本語学習を支援するためには、学びやすい環境づくりと、相手を思いやる姿勢が何より大切です。
教材や学習方法の工夫はもちろん、一緒に成長する気持ちで向き合うことが、言語を超えた信頼関係を育てます。
特定技能や技能実習など、今後も外国人材の活躍はますます広がっていく中で、日本語サポートの重要性はさらに高まっていくでしょう。
小さな取り組みでも、確実にミャンマー人の力になれます。
ぜひ、できることから始めてみてください。