人材不足を背景に、外国人雇用が急増しています。
しかし、言語や文化の違いから、外国人雇用にはさまざまな課題が伴うため、企業側には外国人労働者の働きやすい環境整備が求められています。
そこで今回は、事業者が受給できる助成金の中で、人材確保等支援助成金の「外国人労働者就労環境整備助成コース」を解説します。
これは、外国人労働者の事情に配慮した就労環境の整備を行い、職場定着に取り組む目的で事業者が受給できます。
この助成金を有効に活用すれば、外国人労働者の定着率向上に役立てることができます。
雇用により事業者が受給できる助成金の種類
雇用に関連して受給できる助成金の種類について、簡単に触れておきます。
助成金の種類 | 内容 |
---|---|
雇用調整助成金 | 景気の変動などで事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図る事業主に対して支給される |
キャリアアップ助成金 | 非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行う事業主に対して支給される |
特定求職者雇用開発助成金 | 高年齢者や障害者など、就職が困難な方を雇い入れた事業主に対して支給される |
トライアル雇用助成金 | 職業経験の不足などから就職が困難な求職者を一定期間試行的に雇用する事業主に対して支給される |
人材確保等支援助成金 | 人材の確保・定着を図る事業主や、従業員の職場定着を支援する事業主に対して支給される |
これらの中で、外国人採用に関連するのが「人材確保等支援助成金」です。
特に、外国人労働者の雇用に関連する「外国人労働者就労環境整備助成コース」について、詳しく見ていきましょう。
外国人を採用するともらえる人材確保等支援援助金とは?
人材確保等支援助成金とは、外国人労働者の雇用管理や就労環境の整備を行う事業主に対して支給される助成金のことです。
正式名称は「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」と言います。
この助成金は、外国人労働者の職場への定着を目的としています。
外国人の雇用を検討している企業にとって、大きな支援となるでしょう。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)について
本助成金は、以下のような取り組みを行う事業主に対して支給されます。
取り組み | 内容 |
---|---|
雇用労務責任者の選任 | 外国人労働者の管理や支援を担当する専任者を設置する取り組み |
就業規則等の社内規程の多言語化 | 就業規則を外国人労働者の母国語に翻訳し、理解を促進する施策 |
苦情・相談体制の整備 | 外国人労働者が安心して相談できる窓口や体制を構築する取り組み |
一時帰国の権利の周知 | 外国人労働者の一時帰国の権利を明確に伝え、理解を促す施策 |
社内マニュアル・標識類等の多言語化 | 業務マニュアルや注意書きを多言語で提供し、理解を促進する取り組み |
外国人労働者の日本語学習の支援 | 日本語教室の開催など、外国人労働者の語学力向上を支援する施策 |
外国人労働者の資格取得支援 | 業務に必要な資格の取得を支援し、キャリアアップを促進する取り組み |
外国人労働者の日本人との交流促進 | 文化交流イベントなどを通じて、職場での相互理解を深める施策 |
外国人労働者の帰国後の現地再就職支援 | 帰国後のキャリア支援を行い、長期的な関係構築を目指す取り組み |
上記の取り組みはすべて、外国人労働者の就労環境を整備するために必要です。
たとえば、規則やマニュアルの多言語化は、業務内容や職場ルールの理解に直結します。
また、日本語学習や資格取得の支援は、彼らのスキル・キャリアアップにも繋がるでしょう。
就労環境の整備は労働者自身だけではなく、企業にとっても優秀な人材を確保できるというメリットがあります。
受給条件
人材確保等支援助成金を受給するには、以下のような条件があります。
条件 | 内容 |
---|---|
計画書認定取得 | 就労環境整備計画を作成し、管轄の労働局長の認定を受けること |
整備措置の実施 | 認定された計画に基づいて就労環境整備措置を実施すること |
離職率目標達成 | 就労環境整備措置の実施後、外国人労働者の離職率が目標値以下となること |
外国人複数雇用 | 支給申請時点で外国人労働者を2名以上雇用していること |
これらの条件を満たすことで、助成金の受給が可能となります。
ただし、より詳細な条件がある場合や、例外に該当する場合があります。
実際に申請を行う際は、最新の情報を確認してから行いましょう。
助成金が受給できる具体例
では、具体的にどのような場合に助成金が受給できるのでしょうか。
いくつかの例を見てみましょう。
例 | 内容 |
---|---|
多言語対応の相談窓口を設置した場合 | 外国人労働者が母国語で相談できる窓口を設置することで、職場での悩みや問題を早期に解決できるようになる |
日本語教室を開催した場合 | 定期的に日本語教室を開催し、日本語能力向上を支援することで、職場でのコミュニケーションを円滑にできる |
安全衛生教育を実施した場合 | 作業手順や安全対策を多言語で説明することで、労働災害のリスクを低減できる |
交流イベントを開催した場合 | 日本人従業員と外国人労働者の文化交流イベントを通じて、お互いに理解を深めることができる |
上記のような施策を実施することで、助成金を受給しながら就労整備を進められます。
外国人労働者たちのモチベーション、定着率アップを進めることで、会社全体の活性化にもつながるでしょう。
賃金要件
助成金の受給には、賃金に関する要件も設けられています。
具体的には、整備措置実施の翌日から1年以内に、外国人材の月の賃金額が5%以上増加している必要があります。
この要件は、外国人労働者の処遇を改善するためのものです。単に就労環境を整備するだけでなく、実質的な待遇の向上も求められています。
外国人雇用助成金の受給額
人材確保等支援助成金の受給額は、前述の賃金要件を満たしたかどうかで大きく変わります。
要件 | 支給金額 |
---|---|
賃金要件を満たした場合 | 支給対象経費の2/3(上限額:72万円) |
賃金要件を満たしていない場合 | 支給対象経費の1/2(上限額:57万円) |
これらの金額は2024年時点のものです。
制度の変更や改定により、受給額が変わる可能性もあるので注意しましょう。
また、就労環境整備措置を複数実施した場合でも、1事業主当たりの上限額は一定となっています。
そのため、効果性の高い措置を選び、計画的に実施することが重要です。
人材確保等支援助成金の申請方法
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)の申請は手順を解説いたします。
就労環境整備計画の提出
まず、就労環境整備計画を作成し、管轄の労働局長に提出する必要があります。
この計画には、実施予定の就労環境整備措置の内容や、実施スケジュール、外国人労働者の離職率に関する目標などを記載します。
計画の提出期限は、就労環境整備措置の開始予定日の6か月前から1か月前までとなっています。
就労環境整備計画に変更がある場合
提出した就労環境整備計画に変更が生じた場合は、変更内容に応じて所定の手続きが必要です。
軽微な変更の場合は届出で済みますが、大きな変更の場合は変更の認定申請が必要となることがあります。
変更が生じた際は、速やかに労働局に相談してください。
適切な手続きを行い、助成金の受給に影響が出ないようにしましょう。
就労環境整備措置の実施
認定された計画に基づいて、就労環境整備措置を実施します。
この際、実施内容や日時、参加者などの記録を残しておくことが重要です。
後の支給申請時に、これらの記録が必要となる場合があります。
また、実施した措置の効果を測定し、必要に応じて改善を行うことも大切です。
PDCAサイクルを回すことで、より効果的な就労環境整備が可能になるでしょう。
離職率目標の達成
就労環境整備計画で設定した外国人労働者の離職率目標を達成する必要があります。
具体的には、就労環境整備措置の実施後6か月間の離職率が、計画時に設定した目標値以下となることが求められます。
離職率の計算方法は以下の通りです。
離職率 = (離職した外国人労働者数 ÷ 外国人労働者数)× 100
なお、自己都合退職や契約期間満了による退職なども離職にカウントされますので、注意が必要です。
支給申請期間
助成金の支給申請は、離職率算定期間の終了後2か月以内に行う必要があります。
離職率の算定は、就労環境整備計画期間の翌日から起算して12か月間です。
例えば、2024年10月1日から就労環境整備措置を開始した場合、離職率算定期間は2024年10月1日から2025年10月2日までとなります。
この場合、支給申請期間は2025年10月2日から2025年12月2日までとなります。
申請期間を過ぎると助成金を受給できなくなるため、期限には十分注意しましょう。
具体的な申請方法
支給申請は、以下の手順で行います。
手順 | 内容 |
---|---|
①必要書類の準備 | – 支給申請書 – 環境整備措置の実施状況を示す書類 – 外国人労働者の雇用状況を示す書類 – 賃金要件の達成を示す書類 など |
②日本語教室を開催した場合 | 準備した書類を、管轄の労働局またはハローワークに提出する |
③安全衛生教育を実施した場合 | 提出された書類をもとに、労働局で審査が行われる |
④交流イベントを開催した場合 | 審査の結果、要件を満たしていると認められれば、支給決定通知が送付される |
申請の際は、記入漏れや書類の不備がないよう、十分に確認することが大切です。
不明な点がある場合は、事前に労働局に相談しましょう。
受給方法
支給決定後、指定された口座に助成金が振り込まれます。
振込までの期間は案件によって異なりますが、通常は支給決定から1〜2か月程度かかることが多いようです。
なお、助成金の受給後も、関連書類は5年間保管しておく必要があります。
後日、確認や調査が行われる可能性があるためです。
まとめ:外国人雇用をする事業主は外国人雇用助成金を活用しよう
人材確保等支援助成金は、外国人労働者の雇用改善に取り組む事業主にとって、非常に有益な制度といえるでしょう。
この助成金を活用することで、以下のようなメリットが期待できます。
メリット | 内容 |
---|---|
外国人労働者の職場定着率向上 | 外国人労働者が働きやすい環境を作り、優秀な人材を長期的に確保できる |
生産性の向上 | コミュニケーションの改善や安全衛生教育の充実により、業務効率を向上させ、労働災害を防止できる |
企業イメージの向上 | 外国人労働者に配慮した職場環境を整備することで、社会的な評価や信頼性が高まる |