現在、日本の航空業界では深刻な人手不足が課題となっています。
特に空港業務や航空機整備といった現場では、日本人労働者の確保が難しくなっており、その一方で訪日外国人旅行者の増加により、業務量は年々増加しています。
こうした状況の中、一定のスキルを持った外国人材を即戦力として受け入れるための制度として、特定技能が導入されています。
本記事では、航空分野における特定技能制度の概要や、1号と2号の違い、2号への移行に必要な条件や手続きについて詳しく解説します。

航空業界の現状

現在、航空業界は人材不足が大きな課題となっています。
その背景には、訪日外国人旅行者の急増があります。
2024年にはおよそ3,700万人以上の外国人が日本を訪れており、今後は2030年までに6,000万人を目指すという政府の方針も示されています。

このような動きにより、空港や航空機関連の業務量が増える一方で、それを支える人材が不足しているのが実情です。
特に地上業務や整備といった裏方の仕事は、日本人の担い手が減少傾向にあり、外国人労働者の存在が欠かせなくなっています。
一方で、航空業務は安全性や正確性が求められるため、高い専門性や責任感が必要です。
そのため、即戦力として働ける外国人材の確保と育成が急務となっているのです。
航空分野の特定技能とは?

航空分野の業務は、専門性が高く、研修や教育にも時間とコストがかかります。
こうした中、一定の知識とスキルを持った外国人材を「特定技能」という枠組みで受け入れることで、即戦力として活用できるという期待が高まりました。
特定技能制度は2019年にスタートし、航空分野はその対象の一つとして含まれました。
導入当初は1号のみでしたが、2023年には2号への移行も可能となり、より長期的な雇用と定着が見込める体制が整ってきています。
特定技能の在留資格には「1号」と「2号」の2種類がありますが、それぞれに特徴と条件があります。
特定技能1号
特定技能1号は、比較的基本的なスキルを有する外国人が対象となっており、在留期間は最大で5年間です。
対象となる業務も、指導者の下で行う補助的な作業が中心です。
例えば、空港グランドハンドリングでは、荷物の積み下ろしや航空機の誘導をサポートする業務が該当します。
特定技能1号を取得するには、専門試験と日本語試験に合格する必要があります。また、技能実習2号を良好に修了している場合は、一部試験が免除されることもあります。
特定技能2号
特定技能2号は、1号より高度な専門性が求められ、在留期間に制限がなく、家族の帯同も可能です。
業務内容も、工程を管理したり自ら判断して作業を行ったりするレベルが求められます。
たとえば、空港グランドハンドリングでは、チームリーダーとして作業の進行を管理することが求められます。航空機整備では、自分の判断で整備作業を実施できるスキルが必要です。
2号へ移行するには、各業務に応じた「特定技能2号評価試験」に合格するか、航空機整備業務の場合は「航空従事者技能証明」を取得する方法もあります。
ただし、どちらの方法でも、日本語による学科・実技試験をクリアしなければなりません。
このように、1号と2号では求められるスキル・経験・責任の度合いが大きく異なり、2号はより長期的なキャリア形成を目指す外国人材にとって大きなステップアップの機会となります。

特定技能2号で求められる業務内容
ここでは、「空港グランドハンドリング」と「航空機整備」の2つの業務区分について、特定技能2号で求められる業務内容を詳しく解説します。
空港グランドハンドリングの場合
空港グランドハンドリングでは、主に地上支援業務を担当します。
作業をこなすだけでなく、チームリーダーや指導者としての立場で工程全体を管理できることが求められます。
- 【主な業務内容】
-
- 航空機地上走行支援業務(航空機の誘導など)
- 手荷物や貨物の取扱業務(仕分けや搬送)
- 手荷物・貨物の搭降載業務(航空機への積み込み・降ろし)
- 航空機の客室や外部の清掃整備
これらの業務を、安全かつ効率的に進行できるよう、自身が中心となって現場をまとめる力が必要です。
たとえば、スタッフへの指示や作業手順の確認、トラブル時の対応などが含まれます。
- 【関連業務】
-
- 作業場所の整理整頓や清掃
- 事務作業(報告書作成など)
- 積雪時の除雪作業
これらの付随業務も、チーム全体の作業を円滑に進めるためには欠かせません。
ただし、これらの業務だけを目的とした受け入れは認められていない点に注意が必要です。
航空機整備の場合
航空機整備では、より専門的な技術と判断力が求められます。
特定技能2号として求められるのは、指導を受ける側ではなく、自らの判断で整備を行えるレベルの人材です。
- 【主な業務内容】
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- 運航整備(航空機の出発前点検などの整備)
- 機体整備(1年〜1年半ごとに行う定期的な全体整備)
- 装備品・原動機整備(取り外したエンジンや脚部などの整備)
これらの業務は、安全性に直結するため、高い責任感と正確な判断力が必要です。
トラブルの兆候を見逃さず、必要な整備を的確に行えるかどうかが重要なポイントになります。
- 【関連業務】
-
- 作業場所の整理整頓・清掃
- 事務作業
- 積雪時の除雪作業
整備士としての仕事には、実際の整備作業だけでなく、記録や安全管理に関する作業も含まれます。

2号への移行に必要な経験と試験

移行に必要な経験
特定技能2号への移行には、以下の経験が必要です。
- 空港グランドハンドリング
-
空港グランドハンドリングの現場で、技能者を指導しながら作業をした実務経験があること
- 航空機整備
-
航空機整備の現場で、専門的な知識や技量を要する作業をした実務経験が3年以上あること
「航空機整備」の業務区分では、明確な経験年数の要件があり、3年以上の実務経験が必須です。
この経験には、単に整備に関わったというだけではなく、専門的かつ技術的な作業を自らの判断で行った実績が含まれている必要があります。
一方で、空港グランドハンドリングの業務区分では、現時点で明確な必要年数は公表されていません。
移行に必要な試験
特定技能1号から2号へ移行するには、分野ごとに定められた試験や資格を取得する必要があります。
航空分野においては、従事する業務内容に応じて、必要な試験が異なります。
ここでは、航空分野における2つの業務区分「空港グランドハンドリング」と「航空機整備」に分けて、必要な試験について解説します。
空港グランドハンドリングの場合
空港グランドハンドリングの業務に従事する人が特定技能2号に移行するには、「航空分野特定技能2号評価試験(空港グランドハンドリング)」に合格する必要があります。
この試験は、公益社団法人日本航空技術協会が実施しており、学科試験と実技試験で構成されています。
試験は日本語で行われ、指導者やチームリーダーとしてのスキルが求められる内容となっています。
試験の合格により、より高いレベルの業務管理能力があることを証明できます。
航空機整備の場合
航空機整備の分野では、2つの選択肢があります。どちらかを満たすことで、特定技能2号への移行が可能です。
- 【選択肢1】
-
- 航空分野特定技能2号評価試験(航空機整備)への合格
こちらも公益社団法人日本航空技術協会が実施する試験で、学科と実技を通じて、整備士としての高度な知識と技術が問われます。
- 【選択肢2】
-
- 国土交通省が発行する「航空従事者技能証明」を取得
この技能証明には、次のような整備士資格が該当します。
- 一等/二等 航空整備士(飛行機・回転翼航空機)
- 一等/二等 航空運航整備士(同上)
- 航空工場整備士(機体構造、エンジン、電子装備品など各専門分野)など
すでに該当資格を持っている場合は、航空分野特定技能2号評価試験を受ける必要はありません。
いずれの試験も、実施言語は日本語です。
日本語能力試験のような語学試験の合格は義務づけられていませんが、試験に合格するためには、日本語で書かれた問題を理解できるだけの語学力が求められます。
試験の開始時期は?
航空分野の特定技能2号評価試験は、今のところまだ準備段階にあります。
最初に特定技能1号で航空分野に在留資格を得た外国人が2020年から働き始めているため、最大の在留期間である5年が経過する2025年以降でなければ、2号へ移行できる対象者が出てこないことが理由です。
そのため、航空分野の特定技能2号評価試験は、2025年以降に本格的にスタートする見込みで、現時点では試験日程や詳細な内容は公表されていないません。
特定技能2号の申請に必要な書類

特定技能2号へ移行するためには、所定の書類を整えて出入国在留管理庁に申請する必要があります。
特に航空分野では、他の分野と共通の書類に加えて、業務区分ごとに特有の証明書類が求められる点に注意が必要です。
ここでは、申請時に必要となる書類をパターン別に分けて紹介します。
申請者がどの試験または資格を取得しているかによって、提出する書類が異なります。
航空分野では、以下の2通りのパターンがあります。
- 特定技能2号評価試験に合格した場合
- 航空従事者技能証明を取得している場合(航空機整備区分に限る)
それぞれに必要な書類を見ていきましょう。
航空分野特定技能2号評価試験に合格
航空分野特定技能2号評価試験に合格した場合は、次の書類が必要です。
- 航空分野特定技能2号評価試験(空港グランドハンドリング)の合格証明書の写し
または
- 航空分野特定技能2号評価試験(航空機整備)の合格証明書の写し
合格証明書のコピーを提出書類として使用します。
航空従事者技能証明を取得
航空機整備の分野では、評価試験に代わる方法として、国土交通省が発行する「航空従事者技能証明」を取得している場合も特定技能2号の申請が可能です。
この場合は、以下の証明書を提出します。
- 航空従事者技能証明の写し
- 航空分野2号特定技能外国人に求められる実務経験に係る証明書
その他の必要書類
上記のいずれのパターンでも、次のような書類の提出が求められます。
- 航空分野2号特定技能外国人に求められる実務経験に関する証明書(分野参考様式第9-3号)
- 航空分野の特定技能外国人受け入れに関する誓約書(分野参考様式第9-1号)
これらは、受け入れ企業が記入・発行する書類であり、実務経験の内容や、適正な雇用体制の維持について確認されます。


航空分野の特定技能2号|まとめ

航空業界の人手不足に対応するため、特定技能制度の導入は非常に重要な取り組みとなっています。
とくに空港グランドハンドリングや航空機整備といった専門性の高い業務では、外国人材の活用が不可欠です。
特定技能1号から2号へ変更するためには、該当する試験に合格するか、国家資格である技能証明を取得することが必要です。
業務経験についても、航空機整備では3年以上の実務経験が求められ、空港グランドハンドリングでも指導者レベルの経験が重視されます。
航空分野での特定技能2号の試験はまだ実施されていませんが、制度の利用に関する情報は随時更新されるため、公式機関の情報をこまめに確認しながら、準備を進めていきましょう。

