日本国内に在留する外国人の数は、2023年6月末時点で約322万人。そのうちベトナム人は中国人に次ぐ約52万人、在留資格「技能実習」で働くベトナム人は約19万人となっており、国別で1位です。
また、留学生としても多くのベトナム人が日本に在留しています。
技能実習や留学を終えたあと、在留資格「特定技能」に切り替えて働くことを希望するベトナム人は増加していますし、ベトナム人の雇用を検討している企業も多いです。
今回の記事では、ベトナムから特定技能外国人を受け入れる際の流れや注意点、費用などについて解説します。
在留資格「技能実習」や「就労ビザ」との違いにも触れていますので、参考にしてください。
在留資格「特定技能」とは?
特定技能制度は、2019年に施行されました。
「特定技能」は、国内人材の確保が困難な産業分野において、一定水準に達した技能を持つ外国人労働者を受け入れることを目的とした在留資格です。
特定技能制度は、「人手が不足している状況を解消するため、即戦力として活躍してくれる外国人を雇用する制度」だと考えましょう。
受け入れ対象
特定技能制度の受け入れ対象は、以下の12分野です。
農業や漁業だけでなく、宿泊業や外食・飲食業などのサービス業も含まれています。
- 宿泊業
- 介護業
- 外食・飲食業
- ビルクリーニング業
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 飲食料品製造業
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 農業
- 漁業
1号・2号について
特定技能は「1号」と「2号」に分けられています。
以下に両者の違いを簡単にまとめました。
特定技能1号
- 業務に対応するために必要な知識と経験を有している外国人向けの在留資格
- 在留期間に5年の制限がある
- 家族と一緒に日本で生活することはできない
特定技能2号
- 特定産業分野において熟練した技能を持った外国人向けの在留資格
- 在留期間の制限がない
- 家族と一緒に日本で生活することが可能
特定技能2号の受け入れ対象となっている分野は建設業と造船・舶用工業の一部のみでした。
しかし、2023年6月より特定技能2号の対象業種が拡大されたため、現在は介護分野以外のすべての分野において特定技能2号の受け入れが可能になりました。
詳しくは「特定技能2号の対象分野の追加について」出入国在留管理庁をご覧ください。
在留資格「技能実習」とは?
外国人技能実習制度は、1993年に施行されました。
「技能実習」は、日本の技能や技術を外国人の母国に広めることを目的とした在留資格です。
技能実習制度は、「労働力確保のためではなく、発展途上国に日本の技術を広める国際貢献のための制度」だと考えましょう。
1号・2号・3号について
技能実習は「1号」「2号」「3号」に分けられています。
以下にそれぞれの違いを簡単にまとめました。
技能実習1号
- 実習1年目の外国人技能実習生に与えられる在留資格
- 職種によるが、技能検定試験に合格し、必要な手続きをとることで技能自習2号への移行が可能
技能実習2号
- 実習2~3年目の外国人技能実習生に与えられる在留資格
- 職種によるが、技能検定試験に合格し、必要な手続きをとることで技能実習3号への移行が可能
技能実習3号
- 実習4~5年目の外国人技能実習生に与えられる在留資格
- 受け入れには実習実施者と管理団体が優良要件を満たしていなければならない
- 技能検定試験の受験が必要
特定技能との違い
特定技能と技能実習は、以下のような違いがあります。
①作業内容
特定技能とは在留の目的が違うため、対応可能な作業内容に違いがあります。
例えば、外国人技能実習生は日本の技術を母国に持ち帰るために在留しているので、高度な技術を必要としない単純作業ができません。
一方、特定技能外国人は人手不足解消のために在留しているので、単純作業への従事が可能です。
②受け入れ人数
技能実習の受け入れ人数には制限が設けられています。
外国人に日本の技能をしっかりと学んでもらえるよう、指導が行き届いている必要があるからです。
例えば、常勤職員数が50人の企業の場合、受け入れられる技能実習1号の人数は5人以内と定められています。
一方、特定技能制度は労働力の確保を目的としているので、基本的に受け入れ人数の制限はありません。
③必要知識・技能
技能実習生は入国後に技術や技能を学ぶため、来日前に就労する分野の知識を得たり、技能や日本語を習得したりする必要はありません。
特定技能は即戦力として働けることが求められるので、来日前でも一定水準以上の知識や技能を有している必要があります。
後述しますが、特定技能を取得するためには「特定技能評価試験」と「日本語能力試験」に合格しなければなりません。
④家族帯同の可否
家族帯同とは、母国にいる家族を日本に呼び、一緒に生活することです。
特定技能2号は家族帯同が可能ですが、特定技能1号や外国人技能実習生の場合、家族の帯同は認められません。
就労ビザとは?
就労ビザとは、外国人が日本で働く際に取得する必要があるビザのことです。
具体的な業務内容として、以下のようなビザがあります。
- 教授
- 芸術(作曲家・作詞家・画家・写真家など)
- 宗教(僧侶・司教・宣教師など)
- 医療(日本の試験に合格している医師・看護師など)
- 研究
- 教育(学校の教員など)
- 技術・人文知識・国際業務(理工系技術者・通訳など)
- 興行(演奏家・俳優・スポーツ選手など)
- 技能(調理師・パイロットなど)
詳しくは「在留資格一覧表」出入国在留管理庁をご覧ください。
特定技能や技能実習も就労ビザに含まれますが、一般的に認識される就労ビザは「知識や経験を持つ外国人が取得するビザ」と言えます。
例えば、技術・人文知識・国際業務ビザを取得できるのは、大学や日本の専門学校を卒業した人か特定の分野の実務経験がある人に限られます。
技術・人文知識は10年、国際業務は3年の実務経験が必要です。
一方、特定技能の取得に学歴や経験は必要ありません。
技能実習から特定技能への移行について
技能実習制度の目的は、日本の技術や技能を海外に広めることです。
そのため、在留期間を終えた技能実習生は母国に帰ることになります。
しかし、「今後も日本で働いて欲しい」「日本に滞在して働きたい」と考える企業や実習生も少なくありません。
このような場合には、技能実習から特定技能1号へ移行することができます。
移行条件は以下の通りです。
- 技能実習2号を2年10カ月以上、良好に修了していること
- 同職種の分野であること
これらの条件を満たしていれば、特定技能1号の取得に必要な「特定技能評価試験」と「日本語能力試験」の合格も免除されます。
技能実習2号の在留期間終了前に必要書類を提出することで、技能実習から特定技能1号への移行が可能です。
在留資格「特定技能」を取得するには?
外国人が在留資格「特定技能」の取得には、特定技能評価試験と日本語能力試験の合格が必須です。
特定技能評価試験
特定技能評価試験は、一定水準以上の知識や技能を有しているかを測定する試験で、特定産業分野ごとに実施されます。
こちらは受験資格が定められていますので、確認しておきましょう。
一例として、以下は外食業技能測定試験の受験資格です。
- 在留資格を持っており、試験日に満17歳以上
- 退去強制令書の円滑な執行に協力するとして、法務大臣が告示で定める外国政府又は地域の権限ある機関の発行したパスポートを持っていること
日本語能力試験
日本語能力試験は、日本語を母語としない人の日本語能力を測定する試験です。
試験のレベルはN5からN1までの5段階で、在留資格「特定技能」を取得するにはN4以上に合格する必要があります。
特に受験資格は定められていないので、誰でも受験が可能です。
特定技能外国人を雇用するには?
企業側が特定技能外国人を受け入れる「特定技能所属機関」に認定されるためには、出入国在留管理庁に申請書等を送付し、審査を受け、承認される必要があります。
また、以下の要件を満たしていなければなりません。
- 法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である
- 特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
- 特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である
詳しくは下記をご覧ください。
それぞれの項目について簡単に解説していきます。
法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である
当然ながら、きちんと法令等を遵守しており、問題がない企業でなければ特定技能外国人を受け入れることはできません。
法令等遵守の他にも、
- 1年以内に非自発的離職者を発生させていない
- 1年以内に外国人の行方不明者を発生させていない
- 5年以内に技能実習を取り消されていない
- 債務超過になっていない
- 保証金や違約金の徴収を求めていない・支援に関わる費用を負担させない
などの独自条件も満たしている必要があります。
特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
特定技能外国人の報酬金額や労働時間、研修・福利厚生施設の利用・その他待遇は通常の労働者と同等でなければなりません。
外国人だからという理由で通常の労働者と異なる対応をしてはいけないのです。
その他にも、
- 特定技能外国人が一時帰国を希望した場合は、有給休暇を取得させること
- 本人が帰国旅費を負担できない場合は補助すること
- 特定技能外国人に定期健康診断を受診させること
- 給与支払方法が銀行口座振り込みであること
などの独自条件も満たしている必要があります。
また、在留資格申請時は、これらの条件を満たしていることを証明するために下記の書類を提出します。
- 特定技能雇用契約書の写し
- 雇用条件書の写し
特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である
特定技能所属機関は、特定技能外国人に対して、職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援を行わなければなりません。
具体的な支援としては以下のようなものがあります。
- 特定技能外国人が理解できる言語で説明を行う
- 事前ガイダンスの実施
- 出入国時の空港等への送迎
- 特定技能外国人の住居確保に関わる支援
- 適切な情報提供
- 特定技能外国人に日本語学習の機会を提供し、日本人との交流を促進する
- 非自発的離職時の転職支援
また、支援計画を策定・実施する必要もありますが、こちらに関しては登録支援機関に委託できます。
ベトナムから特定技能外国人を受け入れるメリット
ここからは、ベトナムから特定技能外国人を受け入れるメリットについて解説します。
他の在留資格より就労しやすい
特定技能の取得に学歴や実務経験は必要ありません。
技能実習からの移行も可能で、他の在留資格より就労しやすいため、特定技能の取得を希望するベトナム人は多いです。
即戦力として活躍してくれる人材を雇用できるので、企業側にもメリットがあります。
日本と相性が良い
ベトナムでは漢字が用いられていることから、他国よりも比較的日本語の習得が早く、日本の働き方に適応しやすいと言われています。
また、ベトナムと日本は地理的にも近いですし、日本のアニメやドラマの影響で、日本文化に親しみを覚えているベトナム人も多いです。
日本に在留するベトナム人が多い
前述した通り、在留資格「技能実習」で働くベトナム人は国別1位の約19万人。
留学生としても多くのベトナム人が日本に在留しています。
母数が多いため、広範囲からの採用が可能です。
労働に対する意欲が高い
ベトナムでは縫製や刺繍などの手工業が発展しているため、ベトナム人は手先が器用な傾向にあると言われています。
また、とても家族想いの国民性で、家族を養おうという精神が根強く残っています。
そのため、勤勉で労働に対する意欲が高く、向上心が旺盛なことも特徴です。
ただ、時間に厳密な日本と比べ、ベトナムには自分や相手が遅刻をしても気にしないおおらかな人が多いです。
一緒に仕事をする場合は、待ち合わせの時間や納期を都度確認していきましょう。
ベトナムから特定技能外国人を受け入れる際の流れ・注意点
ベトナムから特定技能外国人を受け入れる際の流れや注意点について解説していきます。
送出機関の経由が必要
ベトナムからの人材を採用する際は、DOLAB(ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局)によって認定された送出機関を経由する必要があります。
ベトナムと日本が交換している協力覚書(MOC)には、ベトナムの法律「派遣契約によるベトナム人労働者海外派遣法」18条1項の「労働提供契約書は労働・傷病兵・社会問題省に登録する必要がある」を遵守するよう記載されているからです。
この規定に則り、日本側は認定された送出機関との間に「労働者提供契約」を結び、送出機関を経由して採用しなければなりません。
なお、現地からではなく、日本国内からベトナム人を採用する場合、送出機関の経由は不要です。
推薦者表の交付申請が必要
協力覚書(MOC)では、在留資格を取得する際、DOLAB(労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局)、または駐日ベトナム大使館に「推薦者表交付申請」を行い、推薦者表へ該当するベトナム人の名前を記載してもらう必要があると定められています。
そのため、ベトナム人と雇用契約を締結した後は、この推薦者表を取得しなければなりません。
推薦者表がないと日本に入国する際に必要な在留資格認定証明書交付申請ができなくなってしまうため、十分注意しましょう。
また、推薦者表交付申請は、日本国内からベトナム人を採用する場合にも必要です。
ベトナムから特定技能外国人を受け入れる際に発生する費用
ベトナムから特定技能外国人を受け入れる際に発生する主な費用は以下の通りです。
- 出入国在留管理局への収入印紙代(4,000円)
- 特定技能への在留資格変更許可申請の申請代行手数料(行政書士等に依頼する場合・数万円~)
- 渡航費・住居費等(20万円程度)
- 送出費・紹介料・教育費等(20~30万円程度)
- 登録支援機関への支援委託料(毎月2~3万円程度)
また、建設分野で特定外国人を受け入れる場合、JACへの受入負担金・加入費(数十万円程度)が必要です。
特定技能制度を活用するにあたり、ベトナム人は優秀な人材
今回の記事では、ベトナムから特定技能外国人を受け入れる際の流れや注意点、費用などについて解説してきました。
日本国内には多くのベトナム人が在留しており、特定技能制度は他の在留資格よりも就労しやすいので、広範囲からの採用が可能です。
また、ベトナム国籍の人材は他国に比べ日本語の習得が早く、労働に対する意欲が高いと評価されています。
そのため、人材不足が深刻な日本の産業分野において、ベトナム人は優秀な人材として重宝されるケースが多いです。
特定技能制度を活用してベトナム人を雇用する場合は、送出機関の経由や推薦者表の交付申請などの準備をしっかりと進めていきましょう。