高齢化が深刻化する日本において、介護現場を支える外国人介護士の存在はますます重要になっています。
しかし、外国人が日本の介護現場で働くためには、専門的な知識や技能だけでなく日本語能力が不可欠です。
この記事では、なぜ介護現場で日本語能力が課題になるのか、その理由を3つの側面から詳しく解説します。
さらに、現場で求められる日本語レベルや、外国人介護士向けの日本語教育のポイント、企業ができるサポート、おすすめ教材などについてご紹介します。
外国人介護士が安心して活躍し、質の高い介護サービスを提供するために、日本語能力の重要性について共に考えていきましょう。
- 介護現場で日本語能力が不可欠な理由
- 介護現場で求められる日本語レベル
- 外国人介護士向け日本語教育のポイント
- 介護の現場で役立つおすすめの教材
介護現場で日本語能力が不可欠な理由は?
利用者とのコミュニケーション
介護現場において、最も重要なことの一つは、利用者との円滑なコミュニケーションです。
利用者は高齢者であり、多くの場合、心身機能の低下や認知症等を抱えています。
外国人介護士が利用者一人ひとりの状況を理解し、的確な介護を提供するためには、言葉の壁を乗り越え、丁寧な会話を通じて信頼関係を築くことが求められます。
日本語能力が不足していると、利用者の言葉や表情からニーズを理解することが難しく、適切なサービスの提供が困難になる可能性があります。
介護サービスを安全に提供するため
介護現場では、利用者の安全を確保することが最優先されます。
外国人介護士が日本語能力を十分に習得していない場合、業務上の指示や注意を的確に理解できず、事故やヒヤリハットにつながるリスクが高まります。
特に、専門用語や略語が飛び交う現場では、言葉の理解不足が重大な事故を招く可能性も否定できません。
安全な介護を提供するためには、外国人介護士への日本語教育が不可欠です。
スタッフとの業務連携のため
介護現場では、介護職員だけでなく、医師、看護師、理学療法士、ケアマネジャー等、多岐にわたる職種のスタッフが連携してサービスを提供します。
外国人介護士もチームの一員として、他のスタッフと情報共有や意思疎通を密に行う必要があります。
また、介護業務においては、利用者の状態や提供したサービス内容を記録することも重要な業務の一つです。
記録は、他のスタッフへの情報伝達だけでなく、サービスの質の向上や事故防止にもつながります。
日本語能力が不足していると、他のスタッフとの連携がうまくいかず、記録業務にも支障をきたし、業務効率の低下を招く恐れがあります。
介護現場で求められる日本語レベルは?
では、介護現場で働く外国人介護士には、具体的にどの程度の日本語レベルが求められるのでしょうか。
日常会話レベル+専門用語の知識
介護現場で働く上で、まず基本となるのは日常会話レベルの日本語能力です。
利用者やスタッフとの挨拶や自己紹介、日常生活に関する会話、指示や質問への応答等、円滑なコミュニケーションを行うための基本的な会話能力が必要です。
さらに、介護現場特有の専門用語の知識も必要です。身体介護、生活援助、医療連携、記録用語、介護保険制度に関する用語等、業務に必要な専門用語は多岐にわたります。
研修やOJTを通じて、現場で使用される専門用語を一つずつ学び、理解していくことが重要です。
状況に応じた表現力
介護現場では、利用者の状況は常に変化します。
体調や気持ち、認知機能の状態等、利用者の状態を的確に把握し、適切な対応をするためには、状況に応じた表現力が求められます。
例えば、痛みを訴える利用者に対して、「どこが痛いですか?」「いつから痛みますか?」「どんな痛みですか?」等、具体的に症状を聞き取る表現力や、安心感を与えるような優しい言葉遣いが必要です。
また、認知症の利用者に対しては、簡単な言葉でゆっくりと話したり、身振り手振りを交えたりしながら、丁寧に説明する表現力が求められます。
利用者の個性や状況に合わせたコミュニケーションを実践することで、より質の高い介護サービスを提供することができます。
記録業務に対応できる能力
介護業務においては、記録や報告も重要な仕事の一つです。
利用者の状態や提供したサービス内容、気づいたこと等を記録として残すことで、他のスタッフとの情報共有やサービスの質の向上につなげることができます。
また、緊急時や異常発生時には、的確に状況を報告する必要があります。
記録や報告には、正確で分かりやすい記述力が求められます。
専門用語を適切に使用したり、5W1Hを意識して簡潔にまとめたりする技能が必要です。
研修やOJTで記録業務のポイントを学び、実際に記録を書く練習を重ねることで、記述力を向上させることができます。
日本語能力試験(JLPT)やJFT-Basicのレベルの目安
外国人介護士の日本語能力を測る目安として、日本語能力試験(JLPT)やJFT-Basicといった試験が参考になります。
これらの試験は、日本語を母語としない人の日本語能力を客観的に評価するために実施されています。
N3レベル以上が望ましい
介護現場で働くためには、最低でも日本語能力試験N3レベル以上の日本語能力が望ましいとされています。
N3レベルは、日常的な場面での日本語をある程度理解し、会話を行うことができるレベルです。
業務上必要な指示や説明を理解したり、利用者との日常会話を行うためには、N3レベル以上の日本語能力が必要となるでしょう。
N2レベル以上で業務の幅が広がる
日本語能力試験N2レベル以上の日本語能力があれば、より専門的な内容の理解や、複雑な状況への対応が可能になり、業務の幅が大きく広がります。
記録業務や他職種との連携、研修資料の理解等、より高度な業務にも対応できるようになり、キャリアアップにもつながります。
介護福祉士の国家試験も視野に入れるのであれば、N2レベル以上の日本語能力を目指す必要があります。
外国人介護士向け日本語教育のポイント
外国人介護士向けの日本語教育で最も重要なのは、現場で実際に役立つ日本語能力を習得してもらうことです。
机の上での勉強だけでなく、実際の介護場面を想定した実践的な学習を取り入れることがポイントです。
会話力、コミュニケーション能力の向上
会話力、コミュニケーション能力の向上は、最重要課題の一つです。
ロールプレイングや会話練習等を通じて、場面に応じた適切な表現や言葉遣いを学び、実践的なコミュニケーション能力を養成します。
教材には、現場でよく使用される会話例や、トラブル事例、場面別会話集等を活用し、実践的な会話力を習得できるような工夫が必要です。
介護特有の専門用語、表現の習得
介護現場で使用される専門用語や業界特有の表現は、日常会話とは異なるものが多くあります。
専門用語集や用語解説資料を活用したり、研修で専門用語講座を実施したりすることで、専門用語の知識を増やしていきましょう。
また、現場で先輩職員が使用する言葉をメモしたり、質問したりしながら、実践的に専門用語を習得していくことも重要です。
OJTとOff-JTを組み合わせた教育
日本語教育は、座学形式のOff-JT(Off-the-Job Training)だけでなく、現場でのOJT(On-the-Job Training)と組み合わせることで、より効果を高めることができます。
Off-JTでは、基本的な文法や語彙、専門用語の知識を体系的に学び、OJTでは、実際の業務を通じて実践的な日本語能力を習得します。
OJTでは、先輩職員が外国人介護士の教育担当となり、業務指導と日本語学習のサポートを行うことが望ましいです。
日本人スタッフとの連携
外国人介護士の日本語教育を推進するためには、日本人スタッフとの連携も必要です。
日本人スタッフにも外国人の受入れに関する研修を実施したり、異文化への理解を深める講座を提供したりすることで、職場全体の受入れ体制を整備します。
また、日本人スタッフが外国人介護士の日本語学習をサポートするメンター制度や、相談窓口を設置することも効果的です。
職場全体で外国人介護士の成長を支援するための環境づくりを進めていきましょう。
企業ができる日本語教育サポート
外国人介護人材の育成と定着のためには、企業側の日本語教育サポートも重要です。
入職前から入職後まで、段階に応じた日本語教育プログラムを提供し、外国人介護士が安心して働くことができる環境づくりが求められます。
入職前の日本語教育
入職前の日本語教育は、外国人介護士が来日後スムーズに業務に入るために重要です。
採用内定者への事前トレーニングや、来日前のオンライン学習など様々な方法があります。
採用内定者への事前トレーニング
採用内定者に対して、来日前に日本語や日本の文化、介護業界に関する基本的な知識を学ぶ事前トレーニングを実施することは、入国後のスムーズな就労開始に役立ちます。
事前トレーニングでは、日常会話や生活に必要な日本語表現、介護の基本的な専門用語、日本の介護保険制度の概要等を学びます。
来日前のオンライン学習
来日前の外国人介護士向けに、オンライン学習プログラムを提供することも効果的です。
オンライン学習であれば、時間や場所に制約されずに学習できるため、来日準備期間中に日本語能力を向上させることができます。
オンライン学習プログラムでは、日常会話、専門用語、介護現場で役立つ表現、日本の生活情報等、幅広い内容を提供することが望ましいです。
無料のオンライン学習サイトやアプリを紹介したり、企業独自で開発した教材を提供したりすることも考えられます。
入職後の日本語教育
入職後の日本語教育は、外国人介護士が現場で長く活躍するために重要です。
研修制度の充実、日本語学習支援制度、メンター制度、相談窓口の設置等、多角的なサポートが求められます。
研修制度の充実
研修では、日本語教育だけでなく、介護スキル研修、日本の介護保険制度に関する研修、感染症対策研修、事故防止研修等、業務に必要な知識や技能を体系的に学ぶ機会を提供します。
研修プログラムは、外国人介護士のレベルや経験に合わせて作成し、段階的にスキルアップできるような内容にすることが重要です。
日本語学習支援制度
外国人介護士が継続的に日本語学習を継続できるよう、日本語学習支援制度を導入することも有効です。
日本語学校やオンライン講座の受講費用を補助したり、職場で日本語学習の時間を確保したりすることで、外国人介護士の学習意欲をサポートします。
資格取得支援制度と連携させ、日本語能力試験の受験費用を補助したり、合格祝い金を支給したりすることも、モチベーション向上につながります。
メンター制度、相談窓口の設置
外国人介護士が職場に馴染み、安心して働くことができるよう、メンター制度や相談窓口を設置することも重要です。
メンター制度では、先輩職員がメンターとなり、業務指導だけでなく、生活面や心理面の相談にも応じます。
相談窓口では、日本語や文化、人間関係、キャリア等、様々な悩みや相談に対応します。
メンターや相談員向けに、外国人支援に関する研修を実施したり、相談マニュアルを作成したりすることで、サポートの質を向上させることができます。
介護の現場で役立つおすすめの教材
外国人介護士向けの日本語教育を効果的に実施するためには、教材選びも重要です。
介護をまだ学んだことがない人は、介護用語も一緒に学べるテキストがおすすめです。
介護用語を知っている人は、職場での会話までカバーしているテキストを使うと、より実践的な日本語が学べます。
介護のにほんご1年生 現場でさいしょに使うことば・表現
「現場でさいしょに使うことば・表現」は、介護の現場で働く外国人に必要な日本語を、分かりやすく丁寧に学べる教材です。
このシリーズは、介護の仕事に特化した日常会話や専門用語を実際のシーンに沿って学ぶことができます。
入浴介助、排泄介助、食事介助、移動介助など、実際の業務で使う会話やフレーズを場面ごとに学べるため、すぐに使える表現が満載です。
イラストと写真で直感的に内容を理解できるため、日本語初級者でもわかりやすい内容になっています。
レビュー
N4レベルの日本語で介護のときに使う基本的な日本語を紹介してあります。英語とベトナム語とインドネシア語の訳付きです。このレベルができれば働いているうちに普通に日本語が身につくと思います。
本書は、介護業界の勉強をしながら、更に日本語も上手になれる学習ブックになっています。
会話で学ぼう!介護の日本語
「会話で学ぼう!介護の日本語」は、介護の現場で実際に使える日本語を、会話を通じて学ぶことを目的としたテキストです。
利用者との日常的なやり取りやスタッフ間の報告・相談など、実践的な日本語が学べます。
学習者同士で「介護士役」「利用者役」などに分かれて練習できるロールプレイ形式が取り入れられており、自然な会話の流れを体験しながら学べます。
また、介護の専門用語のについての解説もあり、「排泄」「移乗」「食事介助」など、介護現場で頻繁に使う言葉や動作について、丁寧に説明されています。
音声も聞くことができるので、聞く力・話す力を同時に養うことができるのも特徴です。
レビュー
ベトナム語もあるのでとても役に立ちます♪
シャドーイングで学ぶ 介護の日本語 場面別声かけ表現集
このテキストは、介護の現場で必要な日本語力を、シャドーイングを活用して効果的に身につけることを目的としています。
耳で聞いた音を声に出して練習することで、日本語の発音やイントネーション、リズムを自然に習得できます。
また、具体的な場面に基づいた声かけの表現を学べるため、介護の仕事を始める外国人が実践的に使える内容が詰まっています。
例えば、排泄介助、食事介助、入浴介助、移動介助など、介護現場でよくある場面ごとに必要な声かけの例がまとめられています。
レビュー
フリガナが付いてるからとっても分かりやすい。外国人の皆様おすすめします。
一部覚えるのがやっとだとは思いますが、大事な表現ばかりです。
イラストと写真でよくわかる 外国人のための実践介護 入門編 英語・ベトナム語版
日本で介護の仕事を始める外国人のために、介護の基本的な業務や利用者とのコミュニケーションを学べる本です。
英語とベトナム語の翻訳が付いているため、日本語があまりわからない外国人でも自国の言葉で内容を確認しながら日本語を覚えられるので、スムーズに学習が進みます。
利用者への声かけや介助、身体の扱い方など、実務に直結するスキルが豊富に掲載されています。
イラストや写真を使って視覚的に学べる構成になっているおり、介護の基本的な流れや動作を学ぶ教材として最適です。
まとめ|外国人介護士の日本語能力
高齢化が深刻化する日本において、介護現場を支える外国人介護士の存在はますます重要になっています。
しかし、外国人介護士がその能力を最大限に発揮し、質の高い介護サービスを提供するためには、日本語能力の向上が不可欠です。
企業ができる日本語教育サポートは多岐にわたります。
入職前の事前トレーニングやオンライン学習の提供、入職後の研修制度の充実、日本語学習支援制度、メンター制度や相談窓口の設置など、段階に応じた継続的なサポートが求められます。
記事内で紹介した教材なども参考に、現場で役立つ実践的な日本語教育プログラムを構築することが重要です。
日本語能力が向上することで、外国人介護士は安心して業務に取り組み、能力を最大限に発揮することができます。
それは、利用者の方々へのより質の高い介護サービスの提供、ひいては介護現場全体の活性化に繋がります。
外国人介護士の日本語教育に積極的に取り組み、共に成長していく組織文化を醸成していくことが求められています。