特定技能外国人の受入れを登録支援機関に委託しているが、自社支援に切り替えたいと思っている企業も多いのではないでしょうか。
自社支援にはコスト削減や定着率向上といったメリットがある一方で、一定の体制やノウハウが求められるため、事前にしっかりと準備しておく必要があります。
この記事では、自社支援を行う際に満たすべき6つの要件や、具体的に発生する業務内容、さらにメリット・デメリット等についてわかりやすく解説していきます。

特定技能で自社支援をする際に必要な要件6つ

特定技能外国人の支援を自社で行うには、出入国在留管理庁が定めた6つの要件を満たす必要があります。
特別に難しい内容ではありませんが、いずれも適切な準備と体制が求められます。
ここでは、自社支援をする際の要件を1つずつ詳しく解説します。
過去2年以内に中長期在留外国人の雇用・管理をした実績
まず必要となるのが、過去2年以内に中長期在留資格を持つ外国人を雇用、または管理を行った実績です。
これは、企業として外国人雇用に一定の経験があることを示すための条件です。
例えば、技能実習や技術・人文知識・国際業務ビザ、永住者ビザなどの就労資格を持つ外国人を受け入れていた場合、その実績が要件を満たす根拠となります。
この要件を満たしていない場合は、まず実績を作ることから始める必要があります。
外国人が十分理解できる言語で支援できる
次に求められるのは、特定技能外国人が理解できる言語で支援ができる体制です。
母国語での対応が基本とされ、外国人がしっかり理解出来る言語で面談や相談の対応ができる体制が必要です。
たとえば、日常会話に不安がある外国人に対しては、通訳者を配置したり、翻訳付きの資料を用意するなどの工夫が必要です。
また、休日や夜間など、相談がしやすい時間帯に連絡が取れるよう、常時対応できる体制を整えておくことで、トラブル発生時にも迅速な対応が可能になります。
支援の実施状況に関する書類を作成し保管する
支援の実施内容を記録し、雇用契約終了後も1年以上保管することも求められています。
これは、適切に支援が行われたことを後から証明できるようにするための措置です。
支援の状況に係る文書としては、以下のような文書があります。
- 対象外国人の基本情報
- 実施した支援内容とその記録
- 支援体制についての情報
このような書類は監査などが入った場合に、すぐに提示できるようにしておく必要があります。
支援の中立性を確保できる体制がある
支援を行う際には、公平性・中立性が保たれる体制が求められます。
支援担当者が外国人の直属の上司であったり、社長の親族などである場合は、中立性が確保できないと考えられます。
実際には、人事部や総務部の社員が支援担当者になるケースが多く見られます。
また、支援責任者と支援担当者を兼任する場合でも、業務の性質上、指導的立場にない人物を選ぶ必要があります。
過去2年以内に支援の経験がある社員がいる
日本に中長期間在留する外国人労働者に対して、生活に関する相談対応の経験がある社員が社内にいる必要があります。
また、その社員が支援責任者または支援担当者として任命されていることが求められます。
過去5年以内に支援計画の不履行がない
支援を自社で行うためには、過去5年以内に支援計画の不履行がないことも条件となります。
過去に外国人支援の義務を怠った履歴があると、自社支援の認可を得るのが難しくなります。
特定技能外国人が安心して働ける環境を用意できる企業であるかが、問われるポイントです。

自社支援をする場合に必要な業務

特定技能外国人を自社支援で受け入れる場合、企業が担うべき業務は多岐にわたります。
中でも重要なのが、支援業務と書類作成業務です。
これは出入国在留管理庁によって明確に定められており、すべての受け入れ企業が対応する必要があります。
ここでは、実際にどのような業務が発生するのかを具体的に紹介します。
必ず行う必要がある支援業務
特定技能外国人を受け入れる企業には、10項目の義務的支援が課せられています。
これは外国人が安心して働き、生活できるようにするために必要なものです。
主な支援業務には以下のようなものがあります。
- 入国前の事前ガイダンス
- 入国時の空港への迎えと帰国時の見送り
- 住居の確保や生活インフラの契約支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 日本語学習の機会の提供
- 行政手続きに関するサポート
- 相談・苦情対応の窓口設置
- 日本人との交流機会の促進
- 定期面談と必要に応じた行政機関への報告
- 転職支援
これらの支援は、一度で完了するものもあれば、継続して対応する必要があるものもあります。
たとえば生活相談への対応や面談の実施は、在留期間中ずっと続きます。
支援業務の一部は委託することも可能ですが、自社支援を選んだ場合はすべて社内で対応しなければなりません。



書類作成業務
支援業務と並行して、企業には多くの書類作成業務が発生します。
これは出入国在留管理庁への提出義務があるもので、内容の正確さが求められます。
以下のような書類が必要となります。
- 在留資格の申請書類(就労前の提出)
- 支援計画書(特定技能外国人がしっかり理解できる言語で説明し、署名をもらう必要あり)
- 定期報告書(年に1回の提出が基本)
- 随時報告書(転職、雇用条件変更、退職などの発生時に提出)
これらの書類は、形式や記載内容に不備があると受理されない場合があります。
そのため、入管手続きに関する知識や、書類の作成スキルが求められます。
自社支援を円滑に進めるためには、支援業務と書類業務の両方を的確にこなせる体制が必要です。
自社支援をするメリット・デメリット

特定技能外国人の受け入れを自社で支援する場合、コスト面や社内ノウハウの蓄積といったメリットがある一方で、手間や体制面の負担といったデメリットも存在します。
自社支援をするメリット
- 委託費用を削減できる
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通常、特定技能外国人への支援業務は、登録支援機関に委託されることが多く、その際には1人あたり月額2万円から3万円程度の費用が発生します。
これが複数人になれば、年間数十万円以上の固定コストとなります。
自社で支援体制を整えることで、これらの委託費用をまるごと削減することができます。
このコストを他の福利厚生や教育支援に回すことで、より質の高い雇用環境を整えることにもつながります。
- 外国人との距離が近くなり、信頼関係を築きやすい
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支援業務を外部ではなく自社で行うことで、特定技能外国人と企業担当者の間に自然とコミュニケーションが生まれます。
日々のやり取りを通じて小さな悩みや不安を早期に把握できるため、仕事へのモチベーション低下や定着の妨げになる要因を未然に防ぐことができます。
また、信頼関係が築かれることで、職場内でのトラブルが起きにくくなり、チームとしての一体感が高まるといった効果も期待されます。
- 定着率が向上する傾向がある
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特定技能外国人にとって、日本での生活や就労は大きなチャレンジです。
だからこそ、受け入れ企業が生活面まで丁寧に支援してくれることは非常に心強く感じられます。
例えば、住居の契約や銀行口座の開設、役所での手続きなど、日本人でさえ面倒に感じることを一緒に対応してもらえると、感謝と安心感が生まれます。
- 社内に支援や手続きのノウハウが蓄積される
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自社支援を導入すると、入管への申請や支援計画書の作成、定期的な面談の実施と記録などをすべて社内で行うことになります。
これにより、実務を通して得られる知識と経験が社内資産として蓄積されていきます。
初めは手探りかもしれませんが、1年、2年と続けていくうちにマニュアル化やフローの整備が進み、新しい外国人スタッフの受け入れも格段にスムーズになります。
長期的な人材戦略の一環としても、価値のある取り組みです。
- 支援の質を自社でコントロールできる
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外部機関に任せる場合、どこまで丁寧に対応されているのかが見えにくいという問題があります。
一方、自社で支援を行う場合は、企業の方針や職場文化に合わせた柔軟な対応が可能となります。
例えば、外国人スタッフが所属する部署に合わせた支援内容に調整したり、業務上のルールを説明する際に現場視点で伝えたりすることができます。
このように、自社の目線で「本当に必要な支援とは何か」を考え、形にできるのが自社支援の強みです。

自社支援をするデメリット
- 支援業務に関する知識が必要になる
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自社支援を始めるには、入管法、特定技能制度の運用要領、行政手続き、日本語学習支援、生活支援など、さまざまな分野の知識が求められます。
書籍やオンラインセミナー、専門家の助言を活用しながら、少しずつ理解を深めていく必要があります。
- 日常業務に加えて支援業務が発生する
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ガイダンスの実施や住居支援、日本語学習の機会提供、定期面談、生活相談への対応など、自社支援を選んだ場合は全て社内で行うことになります。
これらは継続的に行う必要があり、担当者の業務負担が増える要因となります。
特に受け入れ初期は不明点も多く、支援準備や対応に多くの時間を割かなければならないことがあります。
- 社内に支援対応できる人材を確保する必要がある
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出入国在留管理庁が求める条件を満たすためには、支援責任者や支援担当者を社内から選任し、それぞれが中立的な立場で業務を遂行できることが必要です。
また、支援経験や外国人対応経験のある人材であることが望まれます。
中小企業など、社内人員に限りがある場合はこの人材確保が大きな課題となることもあります。
- 通訳体制や相談対応の手段を用意しなければならない
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受け入れる外国人の母国語で対応ができる体制を整える必要があります。
日常会話でのサポートや、行政手続きに関する説明を正しく伝えるには、言語の壁を乗り越える支援が欠かせません。
常勤の通訳者が必要というわけではありませんが、必要な時にすぐに対応できるよう、外部通訳サービスとの連携や相談窓口の整備が必要になります。
- 書類作成や保管業務が煩雑
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特定技能に関わる手続きでは、在留資格の申請書、支援計画書、定期報告書、随時報告書など、多くの文書が必要です。
提出期限やフォーマットが決まっており、記載ミスがあると申請が通らなかったり、行政からの指導を受ける可能性もあります。
さらに、支援実施の記録は雇用契約終了から1年以上保管する義務もあるため、書類管理の体制づくりも重要です。
- 制度変更への対応が求められる
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特定技能制度は比較的新しく、制度の改正や更新、運用ルールの変更が頻繁に行われています。
最新の情報を常に確認し、社内の対応をアップデートしていく必要があります。
古い情報のまま運用してしまうと、意図せず制度違反となる可能性もあるため、担当者が継続して学び続ける姿勢が求められます。

【事例紹介】自社支援に切り替えた介護施設の取り組み

ある介護施設では、特定技能1号として外国人スタッフを受け入れ始めた当初、すべての支援業務を登録支援機関に委託していました。支援経験もなく、法制度への理解も浅かったため、外部に任せることで制度を安全に運用できると考えたためです。
しかし、受け入れ人数が増えるにつれ、委託費用が月額で十数万円にのぼり、年単位では数百万円規模の固定コストとなることや、支援内容の柔軟性に限界を感じるようになりました。
そのため、施設は自社支援への切り替えを本格的に検討し始めました。
段階的に準備した主な取り組み
- 支援担当者の社内育成
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- まず、外国人労働者と日常的に関わりのある職員を支援担当者候補として選出。
- 登録支援機関の支援業務を1年間じっくり観察・記録し、どのような書類が必要か、どのタイミングで支援が行われているか習。
- 並行して、入管庁の運用要領や制度解説セミナーを活用し、担当者が制度理解を深める機会を確保。
- ベトナム語対応体制の整備
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- 非常勤のベトナム人通訳者を週数回配置し、入職面談や生活オリエンテーションの通訳・翻訳を担当してもらう体制を構築。
- ベトナム語での支援書類や生活マニュアルも独自に作成し、入職時に活用できるよう整備。
- 支援計画のテンプレート化・マニュアル化
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- 登録支援機関の書式を参考に、支援計画書、定期面談記録、生活支援チェックリストなどを施設独自にテンプレート化。
- 入職から在職中の定期支援まで、誰が何を・いつ・どう対応するかをまとめた支援フロー図を作成し、担当者不在時も対応できるよう体制化。
- 市役所・医療機関・不動産会社との連携強化
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- 行政手続きや住居契約の支援に備え、地元の市役所や地域の医療通訳サービス、不動産会社と事前に連携を構築。
- 外国人向け相談窓口の活用方法や、日本語が不自由でも対応可能な担当者の連絡先などをリスト化し、支援担当者が即対応できる状態に。
切り替え後の効果
このように約1年かけて体制を整えた後、自社支援へと正式に切り替えました。結果として、
- 登録支援機関に支払っていた月額費用がゼロになり、年間100万円以上のコスト削減を実現。
- 支援担当者が現場職員と連携して支援できるようになり、外国人スタッフからの信頼が格段に向上。
- 生活面での不安が減少したことにより、離職率が低下し、1年以上勤務を続ける外国人職員が多数に。
- 施設内に支援業務や書類作成のノウハウが蓄積され、新人の受け入れも円滑に。
支援業務は確かに負担もありますが、「自分たちで支える」という意識が芽生えたことで、外国人スタッフを単なる労働力ではなく“チームの一員”として見る文化が育ったことも、大きな成果といえます。
特定技能の自社支援|まとめ

特定技能外国人の支援を自社で行うためには、出入国在留管理庁が定めた要件を満たし、必要な支援業務と書類対応を確実にこなせる体制が求められます。
ハードルが高そうに感じるかもしれませんが、要件自体は実務経験がある企業にとっては達成可能な内容であり、段階的な準備によって導入も十分現実的です。
特に、自社支援にはコスト削減、信頼関係の構築、社内ノウハウの蓄積といった大きなメリットがあります。
一方で、手間や専門的知識、人材確保といった課題もあるため、自社のリソース状況や今後の採用方針に合わせた判断が必要です。
もし現時点で自社支援が難しい場合は、登録支援機関への委託や一部業務の外注を活用することも選択肢の一つです。
どの形が最も自社に合っているかを見極め、特定技能制度を活用した安定的な人材活用につなげていきましょう。




