宿泊業界では、近年、外国人観光客の増加や人手不足の深刻化により、経験豊富な人材の確保が課題となっています。
こうした状況を受け、「特定技能2号」の在留資格を宿泊分野にも適用し、外国人が長期間日本の宿泊業で活躍できるようになりました。
特定技能2号は、フロント業務や接客業務、企画・広報業務など宿泊施設の運営全般に関わるリーダー的な役割を担う在留資格です。
在留期間の制限がなく、条件を満たせば家族の帯同も認められるため、外国人労働者にとっては安定したキャリア形成ができるメリットがあります。
この記事では、特定技能2号「宿泊」の概要や取得要件、試験内容、受入れ企業の要件等について詳しく解説します。
特定技能2号の取得を目指す外国人労働者や、外国人材を雇用したい宿泊施設の担当者に役立つ情報をまとめました。

特定技能2号とは

特定技能2号は、日本の特定産業分野で高度な技能を持つ外国人が長期間働ける在留資格です。
2023年に宿泊分野でも適用され、ホテルや旅館などの宿泊施設で、経験豊富な外国人材が活躍できる仕組みが整いました。
この在留資格の最大の特徴は、更新の上限がなく、長期間日本で働き続けられる点です。
また、一定の条件を満たせば家族の帯同も認められます。
これにより、企業側は熟練した人材を確保しやすくなり、外国人労働者にとっても安定したキャリアを築くことが可能になります。
特定技能2号を取得するためには、2年以上の実務経験が求められるほか、特定技能2号評価試験に合格する必要があります。
特定技能1号とは異なり、基本的な業務をこなすだけでなく、後輩や部下を指導する能力も問われる点が特徴です。
特定技能2号「宿泊」で従事できる業務
特定技能2号「宿泊」では、宿泊施設の運営に関わる幅広い業務を担当します。
単なる接客や清掃ではなく、リーダーとしてスタッフをまとめ、運営全体を支える役割が求められます。
主な業務は以下の4つに分類されます。
- フロント業務
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- チェックイン・チェックアウトの対応
- 宿泊客への観光情報の案内
- ホテル発着のツアーの手配
フロント業務では、ホテルや旅館の顔としてお客様対応を行います。
特に外国人観光客が増加している現在、多言語対応ができる人材は貴重です。
- 企画・広報業務
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- 宿泊プランやキャンペーンの立案
- SNSやホームページでの情報発信
- 館内案内チラシの作成
宿泊施設の集客力を高めるためには、魅力的なプランを考え、情報発信を行うことが重要です。
特定技能2号の人材は、母国の観光客向けに効果的なプロモーションを行うことも期待されています。
- 接客業務
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- 館内の案内
- 宿泊客からのリクエストや問い合わせへの対応
宿泊客の満足度を高めるため、快適なサービスを提供することが求められます。
顧客のニーズを的確に把握し、柔軟に対応できるスキルが必要です。
- レストランサービス業務
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- 注文の受付やサービスの提供
- 配膳や片付け
- 料理の盛り付けや下ごしらえ
宿泊施設内のレストランやカフェなどでのサービス業務も含まれます。
特に、高級ホテルでは質の高い接客スキルが求められます。
特定技能2号「宿泊」の取得者は、これらの業務を担当するだけでなく、複数のスタッフを指導する能力も求められます。
一般的なアルバイトや新入社員と異なり、リーダー的な立場で業務を遂行できることが特徴です。

特定技能2号「宿泊」を取得するための要件

特定技能2号「宿泊」の申請をするためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 宿泊施設での実務経験
- 宿泊分野特定技能2号評価試験に合格
この2つの条件をクリアすることで、特定技能2号の在留資格を取得することができます。
また、技能実習2号を修了した人は特定技能1号を経由して2号へ移行することも可能です。
ここでは、それぞれの要件について詳しく解説します。
宿泊施設での実務経験
特定技能2号「宿泊」を取得するには、試験に合格するだけでなく、一定の実務経験も必要です。
単に宿泊施設で働いたことがあるだけではなく、後輩や部下を指導できるレベルのスキルを持っていることが求められます。
必要な実務経験の条件
宿泊施設での実務経験が必要とされるのは、特定技能2号の取得者が現場リーダーとしての役割を担うためです。
求められる経験の条件は以下のとおりです。
- 2年以上の宿泊業務の経験があること
- 複数の従業員を指導した実績や同僚、部下への作業指示をした経験
- フロント業務、企画・広報業務、接客業務、レストランサービス業務に従事した経験
実務経験は、勤務先の宿泊施設が発行する「実務経験証明書」によって証明する必要があります。
この証明書は、特定技能2号評価試験の申込時に提出しなければなりません。
実務経験の注意点
2023年6月9日以前に特定技能1号の資格を取得していた場合、それまでの実務経験については指導経験の有無が問われません。
しかし、それ以降に資格を取得した場合は、実際に他のスタッフを指導した経験が必須となります。
また、経験年数が2年に満たない場合は、特定技能2号の取得要件を満たせないため、まずは特定技能1号での経験を積むことが求められます。
参考サイト:宿泊分野特定技能2号評価試験|宿泊業技能試験センター
宿泊分野特定技能2号評価試験に合格
特定技能2号「宿泊」を取得するには、宿泊分野特定技能2号評価試験に合格する必要があります。
この試験は、宿泊業の現場リーダーとしてのスキルを持っているかどうかを判断するために実施されます。
試験の概要
宿泊分野特定技能2号評価試験は、CBT(Computer Based Testing)方式で行われます。
試験は学科試験と実技試験に分かれており、試験の合格基準は、学科・実技ともに65%以上の正答率を満たすこととされています。
学科試験は4肢択一式の問題が約50問あります。
宿泊業務全般に関する知識が問われます。主な出題範囲は次のとおりです。
- フロント業務、接客業務、企画・広報業務、レストランサービス業務に関する知識
- 宿泊業の安全衛生管理
- 宿泊業の心構えや言葉遣いなどの基本知識
- 管理やマネジメント業務
実技試験は20問で、宿泊施設の現場で実際に求められる対応力が問われます。
出題されるのは以下のような分野です。
- フロントでのチェックイン・チェックアウト対応
- 宿泊客からの問い合わせやクレーム対応
- レストランでのサービス業務
試験の難易度
過去の試験結果を見ると、合格率は非常に低く、合格者は毎回数名しかいません。
簡単に合格できる試験ではなく、実務経験に基づいた知識とスキルをしっかり身につける必要があります。
受験を検討している場合は、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の学習テキストを活用し、計画的に学習を進めていきましょう。
参考サイト:【2025年1月実施分】宿泊分野特定技能評価試験 受験者・合格者・合格率発表
宿泊分野特定技能2号評価試験の申し込み方法
宿泊分野特定技能2号評価試験への申し込みには必要書類の準備や試験の予約方法など、事前に把握しておくべきポイントがいくつかあります。
スムーズに申し込むためにも、事前準備をしっかり行いましょう。
ここでは、申し込みに必要な書類と具体的な手順について詳しく解説します。
試験の申し込みには、以下の書類が必要です。
特定技能2号「宿泊」を受験するためには、宿泊業界での2年以上の実務経験が必要です。
この経験を証明するために、勤務先の企業から「実務経験証明書」を発行してもらい、試験申し込み前に提出する必要があります。
受験票には、顔写真が印刷されます。
申し込み時に、規定の条件を満たした写真をアップロードする必要があります。
- サイズ:400×300ピクセル
- ファイルサイズ:1MB以内
- 背景なし、正面向き、帽子やマスクを着用しない状態
写真の不備があると申し込みが受理されない可能性があるため、規定を確認したうえで適切な写真を準備しましょう。
試験を受験するには、本人確認が必要です。以下のいずれかの証明書が求められます。
- 在留カード
- パスポート
有効期限が切れている場合は受験できないため、事前に有効期限を確認しましょう。
試験の申し込みは、すべてオンラインで行われます。
試験申し込みの前に、宿泊業技能試験センターのWebサイトから実務経験証明書を提出します。
実務経験証明書の様式は、宿泊業技能試験センターのWebサイトからダウンロードします。
この証明書が承認されないと試験の予約ができないため、早めに手続きを行いましょう。
試験の予約は、試験実施機関である「プロメトリック」の予約システムを利用して行います。
申し込みを行うには、プロメトリックIDの作成が必要です。
- プロメトリックの試験予約サイトにアクセスする
- 氏名や生年月日をパスポートと同じ表記で登録する
- メールアドレスを登録し、認証を完了する
すでにIDを持っている場合は、新たに作成する必要はありません。
プロメトリックIDを作成したら、試験の予約を行います。
予約は試験日の60日前から可能で、希望する試験会場と日時を選択できます。
- 試験会場を選択
- 希望の日時を選択
- 顔写真データをアップロード
なお、予約の変更は試験日の3営業日前まで可能です。
キャンセルや氏名・生年月日の変更は不可となっています。
予約が完了したら、受験料を支払います。
支払い方法は国によって異なりますが、日本国内での受験の場合、クレジットカード決済またはコンビニ決済が利用できます。
- 受験料:15,000円(税込)
- 支払い完了後、確認書がメールで送信される
支払いが完了すると、確認のメールが届きます。
申し込みの際は、以下のポイントに注意しておきましょう。
- 申し込み期限を厳守する
実務経験証明書の提出は、試験の申し込み前に行う必要があります。
試験の予約は60日前から可能ですが、定員に達すると申し込みが締め切られるため、早めの手続きが重要です。
- 試験日程の変更は早めに行う
予約の変更は、試験日の3営業日前まで可能ですが、直前になると希望の試験会場に空きがない可能性があります。
- キャンセルや返金は不可
申し込み後のキャンセルや返金はできないため、確実に受験できる日程を選びましょう。
特定技能2号「宿泊」の評価試験は、日本国内および海外の指定会場で実施されます。
- 国内の試験会場
-
日本国内では、47都道府県すべてに試験会場が設置されており、月に数回試験が実施されています。
- 海外の試験会場
-
試験を受けられる国は以下の7カ国です。
- インド
- インドネシア
- スリランカ
- ネパール
- フィリピン
- ミャンマー
- ベトナム
海外でも毎月複数回試験が行われています。
参考サイト:宿泊分野特定技能2号評価試験|プロメトリック

技能実習2号から特定技能2号へ移行する場合の流れ
技能実習2号を修了した人は、特定技能1号を経由して特定技能2号へ移行することができます。
このルートを活用すれば、特定技能2号取得に向けたキャリアを効率的に積み重ねることが可能です。
技能実習2号から特定技能2号へ移行するには、以下のステップを踏む必要があります。
- 宿泊分野での技能実習を修了し、実務経験を積む
- 技能実習の職種と特定技能の職種が一致していること
- 宿泊分野の評価試験と日本語試験は免除
- 5年間の在留期間の中でさらに経験を積む
- 2年以上の実務経験を積む
- 宿泊分野特定技能2号評価試験に合格する
移行のメリット
この移行制度を利用する最大のメリットは、技能実習での経験を活かしながら、スムーズに特定技能2号へステップアップできる点です。
特定技能1号を経由することで、日本の宿泊業界に適応しながら必要なスキルを身につけることができます。
また、技能実習2号から特定技能1号に移行する際は、日本語試験が免除されるため、言語面のハードルが低くなります。
日本での長期的なキャリアを目指す外国人にとっては、非常に有利な仕組みといえるでしょう。

特定技能2号外国人を受け入れるための企業側の要件

特定技能2号の外国人材を受け入れるためには、企業側にも一定の要件が設けられています。
特定技能2号の外国人を雇用する企業は、以下の条件を満たしている必要があります。
- 旅館業法に基づくホテルや旅館の営業許可を取得していること
- 風俗営業法の施設に該当しないこと
- 風俗営業法の接待を行わせないこと
- 直接雇用をすること
特定技能2号は、企業が直接雇用することが義務付けられています。
そのため、派遣会社を通じた間接雇用は認められません。
宿泊分野特定技能協議会への加入義務
特定技能2号の受け入れ企業は、「宿泊分野特定技能協議会」に加入し、定期的な報告を行う義務があります。
この協議会は、外国人材の適正な雇用を監督する役割を果たしており、企業側の受け入れ状況や雇用環境をチェックします。
協議会からの調査や指導に協力しなければならないため、企業は法令を遵守しながら適切な雇用管理を行うことが求められます。
参考サイト:特定技能人材を採用する企業様へ|宿泊業技能試験センター

特定技能2号「宿泊」のまとめ

特定技能2号「宿泊」は、日本の宿泊業界で長期間働きたい外国人にとって魅力的な在留資格です。
フロント業務や企画業務など、宿泊施設の運営を支える重要な役割を担うため、高度な技能と実務経験が求められます。
取得には、宿泊分野特定技能2号評価試験への合格と2年以上の実務経験が必須であり、試験の難易度は決して低くありません。
そのため、計画的に学習を進め、実務経験を積むことが成功のカギとなります。
また、技能実習2号からの移行も可能なため、すでに宿泊業界で働いている外国人にとっては、キャリアアップの選択肢となるでしょう。
特定技能2号の外国人材を雇用する際は、直接雇用が必須であり、特定技能協議会への登録義務があります。
特定技能2号を利用することで、即戦力となる人材を確保できる点や、多言語対応を強化できる点は、宿泊施設にとって大きなメリットとなります。
今後、特定技能2号の活用が進むことで、日本の宿泊業界の人手不足が改善され、質の高いサービスが提供されることが期待されています。
