介護の人材不足は外国人雇用で解決できる? 在留資格の種類や雇用時の注意点を解説

介護職の有効求人倍率は2019年度に4倍を突破し、その後も売り手市場、もとい人手不足の長期化が深刻になっています。

求人広告を工夫したり、マッチングサイトを活用したりと色々試すものの、まるで採用につながらず頭を抱えている事業者も少なくないでしょう。

そんな方に知ってほしいのが、外国人雇用という選択肢です。

今回は介護サービスを提供する事業者向けに、外国人受け入れ制度の種類や雇用時の注意点などを解説していきます。

目次

介護業界はどれほど人手不足なのか

介護業界はどれほど人手不足なのか

介護業界では少子高齢化に伴い、要介護者の増加に、介護職員の補充が追いつかない状態となっています。

また、職員は待遇の悪さ、事業者は経営の難しさをそれぞれ理由に、業界を離れてしまうケースが多いのも人手不足の一因です。

以下で詳しく見ていきましょう。

高齢者の人口や介護職員の必要数は増加の一途

総務省統計局が2022年に発表した人口推計によると、日本の総人口は1億2,494万人ほどで、前年度比で約55万人の減少幅を記録しました。

一方で、高齢者(65歳以上)の人口は約3,623万人と、前年に比べ2万人以上増加しており、全人口に占める割合は29%にもおよびます。

第二次ベビーブーム世代が、統計発表時点で50代にさしかかってるのを見れば、高齢者割合が今後十数年で激増することは容易に予測できるでしょう。

こうした高齢化に比例して増加するのが、要介護者数、および介護職員の必要数です。

第8期介護保険事業計画においては、2019年から2040年の間に、介護職員数を約69万人増員する必要があると推計されています。

実際の介護職員数は令和以降ほとんど増えていない

厚生労働省が記録している介護職員数の推移によると、平成以前は毎年プラス数万人で推移していたのに対し、令和に入ってからは増員の流れが著しく鈍化しています。

特に、2021年度からの1年間は約5,000人しか増えていません。

2022年には産業別入職者・離職者状況において、医療・福祉分野の離職者数が入職者数を上回り、全体の就業者数はついに減少に転じてしまいました。

介護業界の離職が多い理由としては、やはり待遇の悪さが挙げられます。

厚生労働省指定の養成施設「日本福祉教育専門学校」がまとめたデータによると、介護職の平均年収は、最も高額な介護支援専門員(ケアマネージャー)でも約452万円です。

この数字は、国税庁発表の民間給与実態統計調査における全業種の平均給与、約458万円を下回っています。

介護は3K労働(※)の代表格として語られる仕事内容で、頑張って昇進しても給与が平均水準にも届かないのが現状なので、人手不足が長期化するのも無理はないでしょう。

(※)3K=きつい・汚い・危険

事業所の休廃業も増えてきている

帝国データバンクに次ぐ国内2番手の信用調査会社「東京商工リサーチ」は、企業の倒産に関する調査を古くから実施しています。

その最新レポートによると、2023年における老人福祉・介護事業の倒産件数は122件で、自主的な休廃業を合わせると633社が営業をストップする事態になりました。

施設の形態別にみると、訪問介護や通所介護(デイサービス)の倒産が多く、施設数を維持できているのは有料老人ホームのみという状況です。

スタッフ不足によって、提供できるサービスや受け入れ可能な人数が減っていけば、事業所の売上高は当然減っていきます。

そうなれば、経営規模は自然と縮小せざるを得なくなり、中小企業であればそのまま休廃業に追い込まれてもおかしくありません。

外国人労働者はどれだけ増えているのか

外国人労働者はどれだけ増えているのか

介護の人材不足を解決する手段として、いま特に注目されているのが外国人労働者です。

受け入れ制度を紹介する前に、まずは外国人労働者が令和以降どれほど増えているのかを解説します。

2023年度に過去最高の200万人以上を記録

厚生労働省が取りまとめた外国人雇用の届出状況によると、2023年10月時点での外国人労働者数は約205万人となっており、前年より20万人以上増加しています。

2020年度から2021年度にかけては、コロナ渦の影響で増加率が0.2%まで落ち込んだものの、2022年度から2023年度にかけては12.4%まで回復しました。

産業別外国人労働者数の推移を見ると、製造業が約55万人と最も多く、そこに商業やサービス業が続くといった形です。

お店の従業員や、製造に携わる技術者に関しては、既に人手不足がある程度解消されていると見ていいでしょう。

一方、建設業界や医療・福祉業界では外国人労働者数があまり伸びておらず、業種間で人手に格差が生じています。

国籍別ではベトナムが一番多い

国籍別外国人労働者の割合を見ると、ベトナムが51.8万人と全体の約25%を占めており、他にも中フィリピンやインドネシアなどアジア圏の国名が主に並んでいます。

ベトナムは、Honda製バイクのシェアが現地市場の80%を占めるなど、日本の製品・サービスが既に広く浸透している国の1つです。

また、ベトナム政府は2020年に新海外労働者派遣法を公布するなど、日本への人材送出体制を着々と整えています。

このような背景を抜きにしても、東南アジア人の真面目な国民性は日本企業と相性が良く、外国人労働者をめぐる市場規模は今後も拡大していく見込みです。

介護業界では2022年度時点で4万人ほど

厚生労働省の発表によると、介護分野の外国人受入実績は、2022年時点で約4万人となっています。

外国人労働者全体から見ると微々たる数字ではあるものの、在留資格の1つである特定技能の適用者数は、2022年の1年間だけで3倍以上(約5千人→約1.7万人)に増加しました。

厚生労働省が公開している在留資格「介護」事例集によれば、多くの介護施設が外国人労働者を複数人受け入れており、中には外国人労働者がリーダーを任されるまでに成長を遂げた事例も存在します。

介護業における外国人受け入れ制度の種類

介護業における外国人受け入れ制度の種類

2024年現在、日本には4種類の外国人受け入れ制度が存在します。

それぞれの概要を以下より見ていきましょう。

EPA(経済連携協定)

EPA(経済連携協定)とは、貿易や人の移動など様々な領域で2国間の結びつきを強める政策です。

介護分野においては、日本で介護福祉士の資格取得を目指す外国人を、最長4年間にわたって日本の介護施設で雇用しています。

母国で看護学校を卒業、または母国の介護士資格を取得済の外国人を対象としているため、一定の経験がある人材を安定的に採用することが可能です。

とはいえ現状、介護分野でのEPA締結国はベトナム・フィリピン・インドネシアの3か国にとどまっており、制度の更なる普及には対象国の増加が欠かせません。

在留資格「介護」

在留資格「介護」とは、EPA以外の制度で入国した外国人労働者が、介護福祉士試験を取得することで新たに登録できる在留資格です。

留学生として入国する場合は2年以上の養成施設在籍、労働者として入国する場合は3年以上の介護施設勤務によって、介護福祉士試験への挑戦権が与えられます。

日本で長く働くことを目指す外国人にとって、在留資格「介護」の取得はキャリア形成に欠かせないステップといえるでしょう。

また、在留資格「介護」の取得を目指す=長く働く意思があるということであり、事業所側としてもそのような人材を積極的に採用したいところです。

技能実習制度

技能実習制度とは、知識や技術の輸出を通じた国際貢献を目的に、発展途上国の外国人を労働者または留学生として受け入れる制度です。

働き手側の制度利用条件が日本語能力試験のN4のみであるため、単純に人手を確保する目的なら最も即効性の高い制度といえます。

ただ、就労のハードルが低いぶん未経験者の割合も多く、それでいて施設側には正社員雇用の徹底や単純作業の禁止といった条件が課されるため、実際に制度を運用するのはそう簡単ではありません。

なお、2024年現在は「育成就労」という最新の在留資格が検討されており、それに伴って技能実習制度は廃止の方向に動いています。

特定技能制度

特定技能制度とは、専門技能や日本語能力が一定の水準に達している外国人労働者を、最長5年にわたって介護施設で受け入れる制度です。

介護日本語評価試験によってある程度の人材レベルが保証されること、および申請書類の簡素化・枚数削減にかかわる取組が進んでいることから、外国人雇用未経験の事業者でも比較的利用しやすい制度といえるでしょう。

また、技能実習制度との大きな違いとして、職種が同じなら追加試験なしで転職が可能というメリットもあります。

介護業で外国人を雇用するメリット

介護業で外国人を雇用するメリット

本項では、人材確保に外国人受け入れ制度を活用するメリットについて、3つの視点から解説します。

若い人材を勤務地問わず確保できる

第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数を見る限り、国内の介護人材は、首都圏をはじめとした一部の都市に固まる傾向にあります。

求職者としても、基本的には家近くの職場を優先するため、単純に人口の多い都市の方が人材を確保しやすいのは必然です。

しかし外国人労働者の場合、先に働き口を見つけた上でその雇用先から提供された住宅に住むのが一般的なため、上記のような地域格差は生まれません。

また、厚生労働省が発表した外国人雇用状況の届出状況によると、外国人労働者の年齢層は20〜30代が大半を占めています。

すぐに辞められる可能性が低い

日本での就労を条件に滞在を許される外国人労働者にとって、仕事を辞めることは、母国に帰らされることと同義です。

すぐ再就職するにしても、在留資格が絡む関係上、日本人が転職するよりも遥かに煩雑な手続きを要求されます。

これらの事情を考えると、外国人労働者に雇用後すぐ辞められる可能性は、国内人材に比べてかなり低いといえるでしょう。

企業としての国際貢献アピールにもなる

外国人受け入れ制度は主に、人手不足に悩む中小企業が活用すべきものですが、大企業にとっても同制度を取り入れるメリットはあります。

それは外国人の定期的な受け入れを、国際貢献に向けたビジネスモデルとして社会にアピールできる点です。

外国人が実際に働いている姿等を、マスメディアを利用するなどして効果的に発信すれば、企業ブランディングとして十二分に効果を発揮するでしょう。

介護業で外国人を雇用する際の注意点

介護業で外国人を雇用する際の注意点

外国人と長く一緒に仕事をしていくには、コミュニケーションや母国文化への配慮など様々な課題を解決しなければいけません。

以下で詳しく見ていきましょう。

指導に時間がかかる

技能実習生を除けば、外国人労働者の多くは最初からある程度、介護の知識や経験を有しています。

それでも、業務に関する細かい取り決めや、利用者一人ひとりに合わせた対応などは1から教えなければいけません

外国人労働者をできるだけ早く即戦力化するには、簡単な日本語のみでマニュアル資料を作成するなど、様々な工夫が求められるでしょう。

長期的に雇用するなら、国家試験に関する支援が必須

外国人労働者を所定の在留期間以降も雇用するには、その外国人が介護福祉士試験に合格し、在留資格「介護」を取得する必要があります。

第36回介護福祉士国家試験の結果にて、EPA介護福祉士候補者の試験合格率が43.8%にとどまっているように、外国人労働者にとって同試験は決して広い門ではありません。

この問題を解決するには、勤務時間の一部を学習支援に充てるなど、試験対策の進捗を事業所側で管理しておくことが求められるでしょう。

言語のみならず、文化の違いも尊重しなければいけない

外国人と一緒に仕事をしていく上で、文化の違いへの対応は欠かせません。

特に考慮すべきなのは、海外は日本ほど時間に厳しくない点、および外国人には「察する」「空気を読む」といった概念があまり理解されない点です。

例えば外国人が遅刻をした場合は、「日本では当たり前」などと雑に叱るのではなく、遅刻によってどこにどのような支障が出るのかを具体的に説明する必要があります。

また「この時間は礼拝に充てたい」など、個人の希望に合わせてシフトを調整するなどの配慮も必要です。

まずは労働環境の改善を

まずは労働環境の改善を

まずは自社の労働環境を見直し、給与の見直しや残業の削減、ヘルスケア体制の充実など様々な改善を図りましょう。

その後も、既存のスタッフからフィードバックを取り、それを速やかに反映する取り組みを継続してみてください。

そうすれば、求人においてアピール内容に困らなくなるほか、採用後の定着率も今より格段に向上するはずです。

まとめ

介護業界の人材不足を解決する手段の1つとして、外国人労働者の受け入れ制度4種を解説しました。

業界全体を買い手市場へ変化させ、求職者の方が余るくらいにしておかなければ、今後も長く続く高齢化には対応しきれません。

そのためにも、まずは多くの介護事業所が、労働環境の改善と外国人の活用を並行して実施していくことが大切です。

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