企業が特定技能1号の外国人を雇う際、入国前に行う支援があります。それが事前ガイダンスです。
事前ガイダンスとは、いったいどのような講習なのでしょうか。
本記事では、事前ガイダンスの内容から手順、種類や注意点などについて、詳しく解説します。
特定技能1号外国人の雇用を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
事前ガイダンスとは
事前ガイダンスとは、企業が特定技能1号の外国人を雇用する際の支援制度です。
事前ガイダンスでは、来日する外国人が在留資格認定証明の交付を申請する前に、就労および日本滞在時におけるさまざまな説明・情報提供をする決まりになっています。
また、すでに在留している外国人の場合は、資格変更申請の前に支援を実施する決まりです。
次に、事前ガイダンスを行う必要がある特定技能外国人と支援制度について説明します。
特定技能外国人とは
外国人労働者が特定の産業分野で働く場合、「特定技能」という在留資格を取得しないといけません。
特定技能1号の資格で働ける産業分野には以下の種類があります。
- 介護
- ビルクリーニング業
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
特定技能制度が対象としている産業分野は、12分野(14業種)です。対象分野は、高齢化・少子化などで慢性的な人材不足という問題を抱えているのが現状です。
その問題を解消するための手段が、外国人就労の大幅な導入です。各分野の人材不足を補うために設立されたのが、一定の技能を持つ外国人材の在留資格「特定技能」です。
2019年4月から実施された特定技能には「1号」と「2号」があり、それぞれ対象の職種・在留期間などに違いがあるのが特徴です。
法務省・出入国在留管理庁サイトにある「特定技能在留外国人数の公表」によると、特定技能1号の外国人の人口の推移は以下のようになっています。
- 2019年: 1,621人
- 2020年:13,690人
- 2021年:49,666人
- 2022年:130,915人
- 2023年:208,425人
- 2024年(6月末まで):251,594人
このように、特定技能外国人の人口は年々増加しており、多くの企業が貴重な人材の確保を実現しています。
事前ガイダンスとは外国人の支援項目の1つ
事前ガイダンスは特定技能1号外国人が就労を開始する前に、特定技能所属機関が外国人に対して行ないます。
特定技能外国人を受け入れる企業を、特定技能所属機関と言います。
企業が特定技能1号外国人を受け入れるために行なうのが、外国人支援計画の作成です。
支援計画の対象は1号のみで、2号には実施しなくても問題ありません。
支援計画は義務的支援・任意的支援の2種類があり、義務的支援は10の項目で構成されています。
事前ガイダンスは、支援項目の1つです。義務的支援と任意的支援については、次で説明します。
事前ガイダンスの義務的支援
事前ガイダンスで、企業(特定技能所属機関)が外国人に対して必ず行わなければならないのが義務的支援です。
伝えなくてはならない義務的支援の事項は以下の通りです。
- 特定技能雇用契約の詳細
- 日本在住のうちに可能な活動
- 入国に関する一連の手続き
- 来日に関して支払った費用の確認
- 保証金・違約金について
- 支援に関す費用について
- 入国時の一連の送迎について
- 仕事・生活のサポートについて
それぞれ詳しく説明します。
特定技能雇用契約の詳細
特定技能外国人に対して、企業が用意した雇用形態・実際の仕事内容・職場・報酬・その他労働条件の詳細などを説明します。
事前ガイダンス以降に質問がないように、昇給やボーナスの有無・休暇などを、明確に説明をして雇用契約内容・採用後の扱いなどを十分に理解してもらう必要があります。
日本在住のうちに可能な活動
特定技能外国人はどこまでが活動範囲なのか、範囲外の活動は何なのか具体的に教えます。
外国人は特定技能を取得さえすれば、日本でどんな仕事でもできるわけではありません。
特定技能外国人は、やっていい仕事とやってはいけない仕事が決まっています。
企業は、特定技能制度で認められている特定産業分野でしか業務ができないことを教えなくてはいけません。
もし特定技能制度で許可が出ていない仕事を特定技能外国人が行なった場合、法律で罰せられる可能性があります。
問題が起きた場合は、外国人だけでなく企業にも損害が生じるためしっかりと説明しましょう。
入国に関する一連の手続き
初めて入国する外国人は、入国前に一連の手続きを済ませる必要があるので、重要事項を説明しないといけません。
入国の主な手続きは以下の通りです。
- 在留資格認定証明書の交付の申請
- ビザの申請
- 証明書の受領後に管轄の日本大使館にて査証申請を行なう
- 証明書交付日から3ヶ月以内に日本へ入国する
すでに日本在住の場合は上記の手続きをする必要はありませんが、在留資格の変更申請が必要です。
手続きを適切に行わないと入国拒否で就労が出来なくなり、企業から内定をもらっていても不履行となるので注意しましょう。
来日に関して支払った費用の確認
特定技能外国人の中には自国の送り出し機関に対して、契約申し込みの取次・準備などの費用を支払っていることもあります。
さまざまな支払いが、双方合意の上で決まっているのか確認しましょう。
「支払い金額と内訳」、「支払い先の機関」、「支払った年月日」などを確認する必要があります。
保証金・違約金
企業と特定技能外国人の雇用において、保証金や違約金などを徴収する契約は禁止されています。
例えば、外国人が契約期間満了を迎える前に退職希望を申し出た場合、契約違反として違約金の支払い義務が発生することは絶対にありません。
外国人の中には違約金・保証金の支払いがあるのでは、と不安になる人もいるかもしれません。
不当な請求による財産没収および財産管理権の移行などの契約締結は、一切ないことを説明しなくてはいけません。
支援に関する費用
特定技能外国人を雇った企業は、外国人の支援にかかる費用をすべて負担しなくてはいけません。
雇用した特定技能外国人の仕事および社会生活上の支援を、企業が負担する決まりです。
支援にかかる費用は、特定技能外国人が少額でも出す必要がないことをしっかりと説明しましょう。
入国時の送迎
特定技能外国人が自国を発って日本へ入国する際、入国した空港・港まで企業のスタッフが迎えに行き、当該外国人を送迎する決まりになっています。
送迎先は企業の事務所、または外国人がこれから住む住居です。
すでに日本在住の特定技能外国人は、日本の住居があるのでこの項目は関係ありません。
仕事・生活のサポート
自国を離れて新しい生活に不安を感じている特定技能外国人のために、仕事や日常生活のサポート体制が整っていることを説明します。
仕事・日常生活の悩み・苦情・相談ができる窓口が用意されていることを説明し、支援担当者の連絡先も伝えます。
問題や不安などがある際は、気軽に連絡ができることを説明しないといけません。
事前ガイダンスの任意的支援
事前ガイダンスには任意的支援もあります。あくまで任意なので、義務的支援のように必須ではありません。
任意的支援の項目の種類は以下の4項目です。
服装
外国人が日本で違和感を覚えるのが、季節の変化です。海外には日本のような四季の変化がない地域もあります。
日本には春夏秋冬があり、気温の変動や季節の変化が激しいので、環境に合わせて服装を変える必要があることを説明しなくてはいけません。
季節の変化に対応できないと体調を崩すこともあるので、薄着と厚着を使い分ける情報提供をしましょう。
持参品
海外では問題ない物でも、日本に持ち込むことが禁止されている物があります。
日本に持参してよい物・いけない物(日本の税関で引っかかる物)を教えましょう。
税関で引っかかる物を持ち込もうとすると、空港または港で拘束されたり、最悪入国拒否になったりする可能性があります。
当面の費用
特定技能外国人が生活で必要になる費用を具体的に説明します。
日本の物価や生活にかかる費用の相場、水道代、光熱費などです。
賃貸住宅に住む場合、契約する際にいくらかかるのかなどの情報も提供しましょう。
支給品
企業から支給される制服・作業着などについて説明します。
支給されるとは知らずに自分で作業服などを用意する特定技能外国人もいるため、支給可能か自分で用意するのかを伝えましょう。
事前ガイダンスの実施方法
事前ガイダンスは、対面かビデオ電話によって進められます。
特定技能外国人である本人が顔を見せて行わないといけない決まりです。
書面やメールのみは、事前ガイダンスとして認められません。
事前ガイダンスは、日本に滞在して仕事・生活を円滑に行なってもらうため、日本を理解してもらうために3時間以上の時間を費やして行われます。
短時間で終了したものは事前ガイダンスとして認められないので、しっかりと時間をかけて特定技能外国人が持っている疑問点などを解消することが重要です。
事前ガイダンス終了後は、企業側が事前ガイダンスの確認書を作成します。この書類には特定技能外国人の署名を入れて保管しなくてはいけません。
また事前ガイダンスは、企業ではなく登録支援機関に業務委託して、ガイダンス実施を代行してもらうことも可能です。その際にも確認書の作成・署名は必須となっています。
事前ガイダンスの注意点
事前ガイダンスにおける注意点は、主に3つです。各注意点を把握しておかないと、特定技能外国人が優秀であっても、日本来日後、円滑に業務が進められないこともあります。
では、事前ガイダンスにおける注意点とは何か、以下で説明します。
生活オリエンテーションとは異なる
特定技能外国人への雇用に対して必須項目といわれているうちの1つが、生活オリエンテーションです。
事前ガイダンスと生活オリエンテーションを同一に考えている人もいるかもしれませんが、両者は異なる講習なので、しっかりと把握しておきましょう。
事前ガイダンスと生活オリエンテーションの特徴は、以下の通りです。
- 事前ガイダンス:入国前の特定技能1号外国人に日本での仕事・生活上の情報提供をする
- 生活オリエンテーション:受入れ企業入社後の特定技能外国人1号に日本での仕事・生活上の情報提供をする
生活オリエンテーションの方が、日本で活動してからの生活マナーやルールといった実践的な内容が多いです。
どちらも重要な講習なので、それぞれの特徴を理解しましょう。
相手が理解してくれるまで行なう
事前ガイダンスで重要なのは、相手が理解してくれるまでしっかりと説明をすることです。
特定技能外国人は日本での労働に備えて、最低限の日本語を勉強しているケースが少なくありません。
しかし、日本人に比べるとまだまだ日本語のトーキング・ヒアリング能力が未熟で、何よりも日本という異文化に対する理解度が少ないです。
そのため、日本という国と担当してもらう仕事について、しっかりと理解してもらえるように説明しましょう。
事前ガイダンスは通訳者を入れて行うことが多いですが、通訳を介してもスムーズにコミュニケーションがとれない場合があります。
しかし、特定技能外国人に理解してもらうまで根気よく、なおかつ適切な説明と情報提供をしなければいけません。
事前ガイダンスは3時間以上の実施が条件
先述した通り、事前ガイダンスにかける時間は3時間以上です。
長丁場であるため、ガイダンスの途中で集中力の低下・疲弊などが起こりやすくなりますが、いい加減に済ませてはいけません。
事前ガイダンスで重要なのは、特定技能外国人が日本での就労・生活における疑問点を解消して、必要な情報提供を適切に行なうことです。
事前ガイダンスは、特定技能の在留資格認定証明書交付申請の際に、正しくガイダンスが実施されているか確認があります。
そのため、外国人の疑問点がなくなるまで講習を行なうことが大事です。
ただし事前ガイダンスは、「技能実習を修了した技能実習生を、そのまま特定技能1号として受け入れる」という条件を満たしていれば短時間でも問題ありません。
技能実習生はある程度の技能を習得していることに加えて、すでに日本で生活しているため、日本の風習・文化の違いなどを理解しているケースが多いです。
技能実習生には、来日する外国人に行うような説明を改めて行う必要がないため、事前ガイダンスの時間が短縮できる上に、1時間ほどでガイダンスが終了することも可能です。
まとめ
事前ガイダンスは、貴重な人材である特定技能1号外国人を雇用する際の重要な業務です。
しかし事前ガイダンスは、3時間の説明・書類作成など手間がかかるため、慣れていない企業は大変な労力になります。
事前ガイダンスや外国人の雇用手続きに慣れていない企業は、一連の業務を代行してくれる登録支援機関・行政書士への依頼がおすすめです。
委託することで、事前ガイダンスと手続きを円滑に終了できるでしょう。
事前ガイダンスの要点を押さえて、スムーズな講習を行いましょう。