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はじめての日本語教授法ガイド:学習者に寄りそう教え方の基礎

日本語 教授法

「どうやって日本語を教えたら伝わるんだろう?」
「文法は説明できるけど、どう練習させたらいいかわからない」
「授業がシーンとしてしまって、学習者の反応が薄い気がする…」

日本語教師としての一歩を踏み出そうとしている方、あるいは踏み出して間もない初心者の教師の方は、日々このような悩みに直面しているかもしれません。

この記事は、そんなあなたのための「日本語教授法」の入門ガイドです

\ 日本語学習システム/

目次

日本語教授法とは

ひらがなのパズルマットとカラフルな文字ピース。日本語学習や文字教育をイメージさせる教材。

かつて、日本語学習者といえば、多くがアジア圏からの留学生でした。しかし今、日本語を学ぶ人たちは驚くほど多様化しています。

進学や就職を目指す人、すでに日本で働きながらビジネス日本語を学ぶ人、アニメやJ-POPが好きで趣味としてオンラインで学ぶ人。国籍も、学習環境も、そして日本語を学ぶ目的も、一人ひとり全く異なります。

このような多様な学習者に対して、かつてのような「一つの決まった教え方」で対応するのは困難です。ある人にとっては最適な方法が、別の人にとっては全く効果がない、ということも珍しくありません。

ここで重要になるのが「日本語教授法」の知識です。

「教授法」と聞くと、何か難しい理論のように感じるかもしれませんが、難しく考える必要はありません。これは、日本語教師としての「教え方の引き出し」のようなものです。

教授法を学ぶことは、目の前の学習者に合った最適な方法を選ぶためのコンパスを手に入れることです。基礎的な知識を身につけることで、学習効果が大きく変わるだけでなく、何よりあなた自身の「教える自信」につながっていきます。

日本語教授法の基礎知識|主な種類

笑顔の外国人女性が黒板を手に持ち、もう片方の手に色とりどりのノートを抱えている。日本語教授法の学びを象徴するシーン。

日本語教授法には「これが唯一絶対の正解」というものはありません。時代や学習者のニーズに合わせて、様々なアプローチが生まれ、使われてきました。

ここでは、日本語教育や言語教育の現場で特に重要とされる代表的なアプローチを一覧で紹介します。それぞれの長所と短所を知ることから始めましょう。

直接法

直接法は、その名の通り「日本語だけで日本語を教える」方法です。授業中、学習者の母語(媒介言語)の使用を原則として禁止し、学習したい言語(日本語)だけでコミュニケーションを行います。教師は絵やジェスチャー、実物などを駆使して、言葉の意味を推測させます。

メリット

最大のメリットは、学習者が日本語に触れる時間が圧倒的に増えることです。これにより、「日本語を日本語のまま理解する力」、つまり「日本語で考える力」が育ちやすいとされています。日本国内の日本語学校の多くが、この直接法(あるいはそれをベースにした方法)を採用しています。

デメリット

抽象的な概念や、複雑な語彙(例:「微妙」「さすが」など)を説明するのが難しく、理解に時間がかかることがあります。また、教師には高い日本語運用能力と、媒介語を使わずに説明する高度なスキルが求められます。

向いている場面

国内の日本語学校(特に初級レベル)、イマージョン・プログラム(その言語に浸りきる環境)

間接法

直接法とは対照的に、学習者の母語(媒介言語)を積極的に使って教える方法です。主に「文法」のルールを母語で説明し、その後で日本語の例文を母語に翻訳する(あるいはその逆)練習を中心に行います。

メリット

学習者は、すでに知っている母語を使って文法ルールを学ぶため、複雑な文法項目(例:受身、使役、敬語)でも早く、正確に理解できることが多いです。独学でテキストを使って学ぶ場合や、教師が学習者の言語を話せるプライベートレッスンでは非常に効率的です。

デメリット

「読む」「書く」力や文法知識は身につきますが、授業の中心が「説明」と「翻訳」になりがちなため、「聞く」「話す」といった実践的な会話力が伸びにくいという最大の弱点があります。学習者は文法を知っていても、いざ話そうとすると言葉が出てこない、という状況に陥りがちです。

向いている場面

独学、文法知識を整理したい中〜上級者、オンラインレッスン(教師が学習者の言語を話せる場合)

コミュニカティブ・アプローチ

特定の「教授法」というより、「指導のゴール」を示す大きなアプローチです。 そのゴールとは、「文法的に正しいこと」よりも、「実際に使えるコミュニケーション能力」を身につけることを最優先にすることです。 このアプローチでは、「知っていること(文法知識)」と「できること(実際の使用)」は別物だと考えます。

メリット

「レストランで注文する」「道を聞く」といった具体的な場面を設定し、その中で必要な日本語を学ぶため、学習者の学習意欲を引き出しやすいのが特徴です。ロールプレイやペアワーク、ディスカッションなどを多用するため、実践的な会話力が身につきます。

デメリット

「流暢さ」を重視するあまり、正確な文法や発音がおろそかになる可能性があります。また、教師は単に知識を教える人ではなく、学習者同士のコミュニケーション活動をうまく設計し、サポートする「ファシリテーター」としての役割が強く求められ、活動準備が大変なこともあります。

向いている場面

会話中心のクラス、実践力をつけたい学習者、タスクベースの授業

初心者教師のための「すぐに使える」授業のヒント

木のテーブルに貼られたカラフルなメモ用紙に「SET GOAL」「MAKE PLAN」「REACH GOAL」など目標達成の言葉が並ぶ。

様々な教授法を知った上で、では実際の授業で何を心がければいいのでしょうか。知識を実践に活かすため、初心者の教師が押さえておきたい4つのヒントを紹介します。

ヒント1:授業計画は「ゴール」から逆算する

「今日は第10課の文法を教えよう」 このように「何を教えるか(教師が何をしたいか)」から授業を設計していませんか? 大切なのは、「この授業が終わった後、学習者が何ができるようになるか(Can-do)」というゴールから逆算することです

例えば、「〜なければなりません」という文法を教える場合、ゴールを「ルールを暗記できる」ではなく、「学校や会社のルールについて話すことができる」と設定します。

ゴールが決まれば、そこに至るプロセス(授業の流れ)が見えてきます。多くの日本語教科書で使われている基本的な流れは「導入→提示→練習→活動」です。

STEP
導入

学習者の興味を引き、学ぶ内容の「場面」を意識させる。

学校の写真を見せ「皆さんの学校にルールはありますか?」と聞く

STEP
提示

「これが新しい文型です」と分かりやすく提示する。

「学生は制服を着なければなりません」と文型を提示

STEP
練習

新しい文型を定着させるための練習(基礎・応用)。

ドリル、穴埋め、簡単な文作りなど

STEP
活動

提示・練習した文型を、実際のコミュニケーションに近い場面で使ってみる。

「自分の国の面白いルールを紹介しよう」というテーマでペアワークする

使用する教科書や教材の内容も踏まえ、学習者のCan-doを意識した教案を組み立てましょう。

ヒント2:「やさしい日本語」を意識する

初心者の教師が陥りがちなのが、学習者に対して「難しい日本語」で話しかけてしまうことです。教師が使う日本語は、学習者にとって最も重要かつ最適なインプットになります。

学習者のレベルに合わせて、教師が意図的に使う日本語をコントロールすることを「ティーチャー・トーク」と呼びます。特に初級レベルでは、以下の点を意識した「やさしい日本語」を使いましょう。

一文を短く切る

「今日は文法を勉強してから、午後は漢字のテストをしますが、その前に…」ではなく、「今日は文法を勉強します。それから、漢字のテストをします。」

難しい言葉を言い換える
  • 「〜に起因する」→「〜が原因です」
  • 「〜を遵守する」→「〜を守ります」
文法をシンプルに

尊敬語や謙譲語は避け、丁寧語(です・ます)に統一する。

非言語情報も活用する

言葉だけでなく、表情、ジェスチャー、絵カード、実物などを最大限に活用して、視覚的に理解を助けましょう。

ヒント3:文法は「例文(場面)」で導入する

私たちは中学校で英語を学んだ時、「これはS+V+C(第2文型)です」といったルール説明から入ることが多かったかもしれません。

しかし、外国語として日本語を教える場合、特に初級のうちは、「〜は〜です」といった抽象的なルール説明から入るのは避けた方が賢明です。なぜなら、学習者は「ルール」ではなく「その言葉をいつ、どう使うか」を知りたいからです

文法は、具体的な「例文」や「場面」の中で提示しましょう。

例えば、「〜(動詞)てから、〜(動詞)ます」という文型を教える時。
  • (悪い例)「これは動作の順番を表す文法です。動詞のテ形に『から』をつけます」 
  • (良い例)教師が「(食べるジェスチャー)ごはんを食べます。(寝るジェスチャー)寝ます」と言った後、「わたしは、ごはんを食べてから、寝ます」と、具体的な行動(場面)の中で提示する。

テキストの例文を使う場合でも、その例文が使われる場面をしっかり想像させることが大切です。「形(接続)」だけでなく、「意味(どんな時に使うか)」と「使い方(使う時の注意点)」をセットで教えるようにしましょう。

ヒント4:学習者の「間違い」を恐れない

授業中、学習者が間違った日本語を使った時、あなたはどうしますか? 「間違えたらすぐに訂正しなければ!」と焦るかもしれません。

しかし、エラーは学習者が日本語を学ぼうと挑戦している何よりの「証拠」です。エラーを恐れてはいけません。「間違えたら恥ずかしい」「先生に怒られる」と感じるクラスでは、学習者は萎縮してしまい、簡単な日本語しか話さなくなってしまいます。

エラーへの対応(訂正)は、授業の目的によって使い分けましょう。

即時訂正ドリル練習など「正確さ」を目的とする練習の時。
学習者が間違えたら、その場ですぐに正しい形を示す。
遅延訂正ペアワークやディスカッションなど「流暢さ」を目的とする活動の時。
学習者の発言を遮らず、教師はメモを取っておき、活動が終わった後で「さっき、こんな良い表現がありましたが、この部分はこう言うともっといいですね」と全体にフィードバックする。

学習者がなぜそのエラーをしたのか(例:母語の影響か、ルールの誤解か)を分析することで、教師自身の「教え方」も改善されていきます。

日本語教授法を知りたい人におすすめの本・教材

木製の棚に並べられたカラフルな本の背表紙。学びや読書、知識の蓄積をイメージさせる明るい構図。

ここで紹介した基礎知識やヒントは、教授法のごく一部です。さらに深く体系的に学ぶためには、良質な本や教材で知識を補強することが不可欠です。ここでは、レベルや目的に合わせて学びを深められるおすすめの書籍や関連サイトを紹介します。

日本語を教えるための教授法入門 第2版

日本語を教えるための教授法入門 第2版の表紙画像
画像出典:くろしお出版

『日本語を教えるための教授法入門 第2版』(深澤のぞみ・本田弘之 編著、くろしお出版)は、日本語を外国語・第二言語として教えるための理論と実践を体系的にまとめた入門書です。これから教師を目指す人や、授業をより良くしたい現職教師に向け、教授法の基礎理論から授業設計、技能別指導、評価方法までをわかりやすく解説しています

第2版では、近年の日本語教育を取り巻く制度・法的変化や多様な学習者への対応を踏まえて内容を刷新。理論を現場にどう活かすかを重視し、具体的な授業例や活動の進め方も豊富に紹介しています。

教育理念から実践までを一冊で学べる構成で、日本語教師養成課程の教材としても、自らの授業を見直したい教師にも最適なガイドブックです。

日本語教師をめざす人のためのスモールステップで学ぶ 教授法

本書は、これから日本語教師を目指す方、もしくは既に教え始めた方が基礎を改めて確認したい時にも役立つ「スモールステップ」シリーズの1冊です。

各章ごとに「教師と学習者」「外国語教授法」「日本語教育法」「コース・デザイン」「教材分析・開発」「授業実践と振り返り」「中間言語分析」「評価法」という8つのテーマを取り上げており、広く日本語教育の枠組みをカバーしています

冒頭に「キーワードチェック」があり、自分の知識を確認してから学習を始められる構成。各学習項目は基本的に2ページでまとめられ、説明→問題の流れで「1日2ページ」ペースで無理なく読み進められる点が特徴です。

試験対策にも適しており、教材には別冊で丁寧な解説が付いています。試験を控える方だけでなく、授業設計や振り返りに活用したい教師にも有用な入門書です。

改訂新版日本語教授法

改訂新版日本語教授法の表紙画像
画像出典:大修館書店

本書は、日本語教師を志す人々にとっての定番とも言える入門書で、「日本語教育の特色」「母語の学習と外国語学習」「外国語教授法のいろいろ」「日本語教育の歴史」「文字・語彙・文法の指導」「教科書について」「学習者の評価・教師の心構え」など、指導に必要な理論と実践の双方を幅広く扱っています

改訂新版として刊行されており、確かな指針として教育現場でも広く受け入れられています。授業設計や教材分析、技能別指導などの項目も含まれており、教務・研修を担う人にも役立つ内容です。

日本語教師初心者によくある悩み(Q&A)

赤と黄色の背景に「Q&A」と印字された木製ブロックが並ぶ。質問と回答コーナーを象徴するシンプルな構図。

ここでは、初心者の日本語教師初心者によくある悩みを紹介します。

授業中に学習者の母語を使ってもいいですか?

目的次第ですが、補助的に使うのはアリです。 直接法にこだわりすぎて学習者が混乱し、授業がストップしてしまうのが一番もったいないです。

特に複雑な文法説明や、授業の指示が伝わらない時、学習者が不安を感じている時などは、補助的に媒介語を使う(あるいは使うことを許可する)方が、学習者の認知的な負担を減らし、かえって学習効率が上がることがあります。

大切なのは「媒介語を絶対に使わないこと」ではなく、「学習者の理解を助けること」です

学習者全員のレベルがバラバラで困っています。

「レベルがバラバラ」と言っても、例えば「会話は得意だが漢字が苦手」「文法知識はあるが話せない」など、状況は様々です。まずは、そのクラスにいる学習者の強みと弱みを分析しましょう。 

その上で、全員に同じタスクを課すのではなく、レベルの高い学習者には追加のタスク(例:より難しい語彙を使って話す、文章を要約する)を、レベルが低い学習者にはサポートを手厚くする(例:ヒントカードを渡す、教師がペアに入る)といった「個別対応」の工夫が求められます。

授業がシーンとして盛り上がりません…

学習者が「主役」になる時間を増やしましょう。 授業がシーンとする理由は様々ですが、一番多いのは「教師が一方的に話す時間が長すぎる」ことです。

教師が主役の授業では、学習者は「お客様」になってしまいます。 「教師が話す時間」を減らし、「学習者が日本語を使う時間」を増やす工夫をしましょう。

 具体的には、簡単なことでもペアワークやグループワークを取り入れることです。「テキストを読んでください」ではなく、「ペアで交互に読み合ってください」。「この答えは何ですか」と全体に聞くのではなく、「ペアで答えを確認してから発表してください」。 学習者が「主役」になる活動が増えれば、クラスは自然と活気づいてきます。

まとめ:学び続ける日本語教師であるために

ノートパソコンとノートを使って学習する外国人と教師。ペンを手に協力しながら勉強を進める様子。

ここまで、日本語教授法の基礎的な知識と、実践のヒントを紹介してきました。

最後に一番お伝えしたいのは、教授法はあくまで「道具(ツール)」であるということです。 「直接法が優れている」「コミュニカティブ・アプローチが最新だ」といった議論もありますが、完璧な教授法というものは存在しません。

現代の日本語教育では、どれか一つの方法に固執するのではなく、それぞれの良いところを取り入れ、目の前の学習者や学習目的に合わせて柔軟に使い分ける方法が主流です。

最も大切なのは、目の前の学習者をよく観察し、「この人には今、どんな方法が必要だろう?」と考え、試行錯誤することです

初心者のうちは、経験不足から不安になることも多いでしょう。しかし、最初から完璧な授業ができる教師はいません。初心者の今だからこそ、学習者の目線に一番近いところで、一緒に成長していくことができます。

この記事で紹介した本や教材、あるいは研修会や日本語教師のコミュニティなどを活用し、ぜひ継続的に学び続けてください。

\ 日本語学習システム/

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県たつの市生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
・2019年外国人の日本語教育を簡単、安価にするため
 日本語eラーニングシステムを開発、1万人超の外国人が日々学習中

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