ホテル・旅館で特定技能外国人を雇用するには?特定技能「宿泊業」について解説

ホテル・旅館で特定技能外国人を雇用するには?特定技能「宿泊業」について解説

外国人観光客の増加、新型コロナウイルス流行時の人材流出などの影響で、人材不足が深刻化している宿泊業界。

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」では、約7割のホテル・旅館が人手が不足していると回答しています。

即戦力となる人材を確保するため、外国人労働者の採用を検討している企業も増えてきているのではないでしょうか。

そこで本記事では、特定技能「宿泊業」について解説します。宿泊業界で特定技能外国人を雇用する際の条件や注意点などにも触れていますので、参考にしてください。

目次

特定技能「宿泊業」とは?

特定技能制度は、2019年4月に創設されました。

制度の目的は、「日本の人手不足を解消するために、技術・技能が一定水準に達している外国人労働者を雇用する」ことです。

在留資格「特定技能」を利用して就労している外国人は、「特定技能外国人」と呼ばれます。

特定技能制度の受け入れ対象は、需要が高く、人手不足が問題となっている以下の12分野です。

  • 農業
  • 漁業
  • 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
  • 飲食料品製造業
  • 航空業
  • 自動車整備業
  • 造船・舶用工業
  • 建設業
  • ビルクリーニング業
  • 外食業
  • 宿泊業
  • 介護業

また、特定技能は「特定技能1号」と「特定技能2号」に分かれています。

以下に両者の違いをまとめました。

特定技能1号

特定技能1号は、業務に対応するために必要な知識と経験を有している外国人が取得できる就労ビザ・在留資格です。

特定技能1号には、以下のような特徴があります。

  • 在留期間に最長5年間の制限がある
  • 家族帯同(家族と日本に滞在すること)は不可
  • 外国人支援が必要。受け入れ企業側で支援できない場合は、登録支援機関(人材派遣会社や監理団体、行政書士・社労士の事務所など)に支援を委託しなければならない
  • 日本語能力を測定する試験に合格しなければならない
  • 介護分野での受け入れが可能

宿泊業界では、基本的に特定技能1号が雇用されています。

特定技能2号

特定技能2号は、特定産業分野において、熟練した技能(業務に関する指導などができる)を有している外国人が取得できる就労ビザ・在留資格です。

特定技能2号には、以下のような特徴があります。

  • 手続きをすれば日本に永住でき、実質在留期間の制限がない
  • 配偶者と子に限られるが、要件を満たせば家族帯同が可能
  • 自社や登録支援機関での外国人支援が不要
  • 基本的に日本語能力を測定する試験を受ける必要はない(漁業分野は例外)
  • 介護分野での受け入れは不可

特定技能2号の受け入れ対象分野は限られていましたが、2023年6月より受け入れ対象分野が拡大されました。

これにより、現在では介護分野以外の全ての特定産業分野において、特定技能2号の受け入れが可能です。

そのため、今後は宿泊業界でも特定技能2号の受け入れが広がっていく可能性があります。

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:特定技能2号の対象分野の追加について(令和5年6月9日閣議決定) | 出入国在留管理庁

受け入れ人数の上限はある?

特定技能制度は人手不足解消を目的としているので、基本的に受け入れ人数の上限はありません。

介護分野と建設分野では「日本人等の常勤職員の総数を超えた特定技能外国人は雇用できない」と定められていますが、宿泊業界での雇用を考えているのであれば気にする必要はないでしょう。

特定技能「宿泊業」で対応できる業務

宿泊分野の特定技能外国人が従事できる業務は、主に以下の4種類です。

  • フロント業務
  • 企画・広報業務
  • 接客業務
  • レストランサービス業務

接客スタッフから広報業務まで、幅広い業務に対応することが可能です。

また、館内販売や館内備品の点検・交換など、メインの業務に付随する関連業務にも従事できます。

詳しくは下記の資料をご覧ください。

参考:特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領‐宿泊分野の基準について‐ 法務省・国土交通省

特定技能「宿泊業」で対応できない業務

ここでは、宿泊分野の特定技能外国人が従事できない業務について解説しています。

接待を行う施設での就労・接待業務

風俗営業法規定の接待を行う施設で特定技能外国人を就労させることはできません。

また、同法規定の「接待」を行わせることもできません。

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例等の一部改正について 警視庁

単純作業のみ

特定技能外国人は、清掃や皿洗いなどの単純作業にも従事できます。

しかし、これらの単純作業のみに従事し、宿泊サービスに全く関わらないことは認められていません

関連業務のみ

前述した館内販売や館内備品の点検・交換などの関連業務のみに従事することも認められていません。

「宿泊業」で在留資格「特定技能」を取得するには?

「宿泊業」で在留資格「特定技能」を取得するには、「日本語能力を測定する試験」と「宿泊分野特定技能1号試験」に合格するか、宿泊分野の技能実習から移行する必要があります。

ここでは、それぞれの試験や、技能実習生からの移行について解説しています。

日本語能力を測定する試験

「日本語能力試験(JLPT)」か「国際交流基金日本語テスト(JFT)」の2種類の試験のうち、どちらかに合格する必要があります。

どちらも出題範囲が広いため、計画的な勉強が必要です。

ここでは、2種類の試験の概要をまとめています。

日本語能力試験(JLPT)

日本語能力試験(JLPT)とは、公益財団法人日本国際教育支援教会と独立行政法人国際交流基金が実施している、日本語を母語としない人の日本語能力を測定する試験です。

試験のレベルはN5からN1までの5段階で、特定技能の在留資格を取得するにはN4以上に合格しなければなりません。

N4レベルでは、以下のようなことが求められます。

  • 基本的な日本語を理解することができる
  • 基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる
  • 日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる

出典:N1~N5:認定の目安 | 日本語能力試験 JLPT

試験は日本国内だけでなく、世界各国で受験できます。

学歴や年齢、性別、国籍、職歴、職種などによる制限はないので、誰でも受験が可能です。

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:日本語能力試験 JLPT

国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)

国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)とは、国際交流基金が実施している、主として就労のために来日する外国人が遭遇する生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定する試験です。

試験のレベルはA1からC2までの6段階で、特定技能の在留資格を取得するにはA2以上に合格しなければなりません。

A2レベルでは、以下のようなことが求められます。

  • ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる
  • 簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる
  • 自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる

出典:JFT-Basicとは | JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テスト

試験は日本国内のほか、ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴル、インド、スリランカ、ウズベキスタンなどの国で受験できます。

また、日本国内で受験する場合は在留資格を持っている必要があります。

海外で受験する場合は実施国によって年齢制限が設けられているので、受験する国の案内を確認しましょう。

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テスト

宿泊分野特定技能1号試験

宿泊分野特定技能1号試験とは、一般社団法人宿泊業技能試験センターが実施している、宿泊サービスの提供に係る「技能」の水準を評価する試験です。

学科試験と実技試験があり、それぞれ以下のようなことが求められます。

学科試験:選択式真偽法

以下の4業務に関して、基礎的な知識、現場において適切な対応をとったり、安全衛生を確保するために必要な知識を有している。

  • フロント業務
  • 企画・広報業務
  • 接客業務
  • レストランサービス業務

また、以下の事項に関して、宿泊業務に従事するに当たっての一般的な知識を有している。

  • 心構え
  • 身だしなみ
  • 言葉遣い
  • 立居振る舞い
  • マナー

実技試験:口頭による判断等試験

以下の3業務に関して、宿泊施設利用者の求めに応じ、適切な対応をとることができる。

  • フロント業務
  • 接客業務
  • レストランサービス業務

参考:★試験案内★ 2022年度 第1回 宿泊業技能1号測定試験 | 特定技能JOB

日本国内のほか、インド(一部地域を除く)、インドネシア、ネパール、フィリピン、スリランカ、ミャンマーで国外試験が実施されています。

受験資格は下記の通りです。

  • 試験日において満17歳以上(国籍がインドネシアの場合は満18歳以上)であること
  • 日本国内で受験する場合は、「宿泊分野特定技能1号評価試験実施要領」に記載の受験資格を満たしていること

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:宿泊分野特定技能1号評価試験|特定技能1号|試験一覧|特定技能試験|プロメトリック

また、2024年3月より2号試験が行われています。

2号試験について、詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:令和5年度(2023年度)第1回(2024年3月) 宿泊分野特定技能2号評価試験(東京・大阪) | 特定技能試験 | 一般社団法人 宿泊業技能試験センター

技能実習生から移行する

以下の2つの条件を満たすことで、宿泊分野の技能実習から特定技能1号へ移行できます。

  • 技能実習2号を良好に修了している
  • 従事しようとする業務と技能実習2号の業種に関連性が認められる

移行の際は「日本語能力を測定する試験」「特定技能評価試験」の合格が免除されます。

「宿泊業」で特定技能外国人を雇用するには?

企業が「宿泊業」で特定技能外国人を受け入れる「特定技能所属機関」に認定されるためには、以下の5つの条件に該当している必要があります。

  • 旅館・ホテル営業の許可を受けている
  • 法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である
  • 特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
  • 特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である
  • 宿泊分野特定技能協議会に加入している

ここでは、それぞれの条件について解説しています。

旅館・ホテル営業の許可を受けている

旅館・ホテル営業の形態で宿泊施設を経営していて、旅館業法第3条第1項の旅館・ホテル営業の許可を受けている必要があります。

簡易宿所営業や下宿営業で特定技能外国人を受け入れることはできません。

詳しくは下記の資料をご覧ください。

参考:特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領‐宿泊分野の基準について‐ 法務省・国土交通省

法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である

当然のことですが、法令等を遵守しており、問題がない企業でなければ特定技能外国人を受け入れることはできません。

また、以下のような独自要件を満たしている必要もあります。

  • 1年以内に非自発的離職者を発生させていない
  • 1年以内に外国人の行方不明者を発生させていない
  • 5年以内に入管法・労働法令等に違反していない
  • 5年以内に技能実習を取り消されていない
  • 支援に関わる費用を負担させないこと

特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である

労働に関わる法令を遵守していることはもちろん、以下のような独自要件を満たしている必要もあります。

  • 相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事させる
  • 特定技能外国人の労働時間は通常の労働者と同等である
  • 特定技能外国人の報酬額は日本人と同等以上である
  • 特定技能外国人が一時帰国を希望した場合は、有給休暇を取得させる
  • 本人が帰国旅費を負担できない場合は補助する

特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である

特定技能所属機関は、特定技能外国人に対して支援計画を策定し、職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援を行うことを義務づけられています。

また、以下のような独自要件を満たしている必要もあります。

  • 特定技能外国人が理解できる言語で支援を行う
  • 1号特定技能外国人支援計画を作成している
  • 事前ガイダンスを実施している
  • 出入国時に空港等への送迎をする
  • 特定技能外国人の住居確保に関わる支援を行う
  • 特定技能外国人の入国後、適切な情報提供を行う
  • 特定技能外国人の生活に必要な契約に関する支援を行う
  • 特定技能外国人に日本語学習の機会を提供する
  • 特定技能外国人と日本人との交流を促進する
  • 非自発的離職時、転職支援を行う
  • 過去2年間に中長期在留者等(就労系資格に限る)の受入れ実績等がある

支援に関しては、登録支援機関に全て委託することができます。

自力で支援体制を整えられないのであれば、支援の委託を検討しましょう。

宿泊分野特定技能協議会に加入している

特定技能制度を適切に運用し、特定技能外国人を保護するために設置された機関が「特定技能協議会」です。

特定技能協議会は分野ごとに設置されていて、宿泊分野で特定技能外国人を受け入れる場合は「宿泊分野特定技能協議会」に加入し、構成員になる必要があります。

特定技能協議会へは、初めて特定技能外国人を受け入れてから4ヶ月以内に加入しなければなりません。

4ヶ月の期限を過ぎると、特定技能外国人の受入れができなくなってしまいます。

特定技能協議会への加入手続きは登録支援機関に委託できるので、不安がある場合は委託するのも良い方法でしょう。

また、2人目以降の受け入れの際に改めて加入し直す必要はありません。

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:宿泊分野特定技能協議会 | 宿泊分野における外国人材受入れ(在留資格「特定技能」)観光庁

特定技能外国人受け入れの流れ

特定技能外国人を受け入れる基本的な流れは以下の通りです。

  • 人材紹介会社などを利用して特定技能外国人を募集する
  • 企業と特定技能外国人が特定技能雇用契約を結ぶ
  • 支援を委託する場合、登録支援機関と支援委託契約を結ぶ
  • 特定技能支援計画を策定する
  • 入管当局へ在留資格の認定または変更の申請をする
  • 入管当局で審査
  • 審査後、雇用・支援を開始する

詳しくは下記HPをご覧ください。

参考:特定技能外国人を受け入れるまで | 在留資格 特定技能 | 外務省

特定技能外国人受け入れに関する各種届出について

特定技能外国人を受け入れている企業には、特定技能雇用契約や受け入れの状況に関する各種届出が義務付けられています。

法人の場合は登記事項証明書など、届出書に添付する書類もあるので覚えておきましょう。

届出は持参か郵送で、管轄の地方出入国在留管理局に提出します。

届出の不履行や虚偽の届出については罰則の対象とされているので、十分注意してください。

各種届出について、詳しくは下記HPをご覧ください。

特定技能所属機関・登録支援機関による届出(提出書類) | 出入国在留管理庁

「宿泊業」で特定技能外国人を雇用する際の注意点

ここでは、「宿泊業」で特定技能外国人を雇用する際の注意点を解説しています。

雇用形態

特定技能外国人の雇用形態は、フルタイムのみ認められています。

フルタイムとは、以下のような状態のことです。

  • 原則労働日数が週5日以上かつ年間217日以上
  • 週の労働時間が30時間以上

パートタイムやアルバイトといった雇用形態は認められていません。

給与・労働時間

報酬額や労働時間は日本人と同等でなければなりません。

また、研修・福利厚生施設の利用・その他待遇も日本人と同等である必要があります。

業務内容

前述したように、特定技能外国人を接待を行う施設で就労させることは認められていませんし、接待業務を行わせることもできません。

また、単純作業のみに従事したり、館内販売などの関連業務のみに従事したりして、宿泊サービスに全く関わらないことも認められていません。

まとめ

本記事では、特定技能「宿泊業」について解説してきました。

特定技能「宿泊業」で対応できる業務は以下の通りです。

  • フロント業務
  • 企画・広報業務
  • 接客業務
  • レストランサービス業務

上記に加え、単純作業や館内販売などの関連業務にも従事できます。

次に、「宿泊業」で特定技能外国人を雇用する条件は以下の通りです。

  • 旅館・ホテル営業の許可を受けている
  • 法令等を遵守しており、受け入れに問題がない企業である
  • 特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
  • 特定技能外国人を支援でき、支援計画が適切である
  • 宿泊分野特定技能協議会に加入している

また、特定技能外国人を雇用する際は以下の点に注意してください。

  • 雇用形態はフルタイムのみ
  • 特定技能外国人の給与や労働形態は、日本人と同等でなければならない
  • 特定技能外国人を接待を行う施設で就労させたり、接待業務を行わせたりすることはできない
  • 単純作業のみに従事させたり、関連業務のみに従事させたりすることはできない
  • 特定技能外国人を受け入れた場合、受入れの状況に関する各種届出が必要

特定技能制度を活用する際は、出入国在留管理庁が定めたルールをしっかりと守りましょう。

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県たつの市生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
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