特定技能の在留資格で働く外国人が転職を希望するケースが増えてきています。
受入企業の担当者としても、転職を希望する本人としても、
- 特定技能の転職は可能なのか?
- 制度上は可能でも現実には難しいのでは?
- どのような手続き・届出が必要なのか?
- 何か注意すべき点やデメリットはないか?
といった疑問が出てくることでしょう。
実際は、特定技能人材にも職業選択の自由が認められていますので、転職すること自体は問題なくできます。
ただし、ビザの切り替えや技能試験の必要性などから、日本人の転職と比べて格段にハードルが高くなります。また、特定技能外国人特有の手続きや届出が必要です。
この記事では、特定技能外国人の転職について、以下のポイントを解説します。
- 特定技能外国人が転職するための条件は?
- 転職のハードルが高い理由は?
- 転職するときに特定技能外国人が行う手続き・届出
- 新旧受け入れ企業が行う手続き・届出
- 転職時の注意点
ひとつずつ順番に解説しますので、ぜひ参考にしてください。
特定技能外国人の転職は可能?
まず結論ですが、特定技能外国人も要件を満たせば転職することができます。
同じ産業分野、業種での転職も可能ですし、農業から介護など、これまでとは違った分野での転職も可能です。
特定技能外国人の転職は以下の3つのパターンが考えられます。
- 自己都合で退職して転職
- 会社都合で退職して転職
- 技能実習から特定技能に移行するときに転職
それぞれ具体的に見ていきましょう。
自己都合で転職する場合
特定技能外国人は自己都合で退職する場合でも、新しい受入れ企業が見つかれば転職できます。
外国人とはいえ「労働者」のため、職業選択の自由が認められているからです。
特定技能外国人が自己都合で転職する流れは以下のようになります。
- 転職先の分野・区分の技能試験に合格する
- 転職元の旧受入企業を退職する
- 在留資格の変更申請を行う
- 新しい在留資格で転職先に入社する
日本人の転職と最も大きく違うのは、在留資格の変更(ビザの切り替え)をしなければ勤務先を変えることができないところです。
それぞれの手続きの流れは後ほど詳しく説明します。
会社都合で転職する場合
受入企業の倒産などで業務継続が困難になり、退職せざるを得なくなることもあります。
その後も日本で働くことを希望する場合は、会社都合で転職することになります。
また、就労先に特定技能人材の受入れ企業として欠格事由が生じて、受入れ継続が困難になるといったケースも考えられます。
会社都合の転職も流れはほぼ同じです。
- 会社都合で退職
- ハローワークなどの支援で新しい就職先を探す
- 在留資格の変更申請を行う
- 新しい在留資格で転職先に入社
会社都合の場合は、これまで受け入れていた事業所が、外国人の再就職などについて支援を実施しなければならないことになっています。
たとえば、失業保険関係の手続きをサポートしたり、ハローワークや人材サービスを紹介したりなどの対応が求められます。
技能実習から特定技能へ移⾏するタイミングで転職する場合
上記とは全く異なるパターンとして、「技能実習」の在留資格で活動している実習生が、良好な評価を得て特定技能に移行するときに、受入企業の変更をすることも可能です。
技能実習は研修生ですが、企業と雇用契約を締結して働いています。
本人が希望すれば、技能実習のときの受入企業を退社して、特定技能人材として新しい受入企業に転職することができます。
特定技能外国人が転職するための条件は主に2つ
特定技能外国人が転職するための制度上の条件は主に以下の2つがあります。
- 特定技能人材の技能
- 十分な在留期間が残っているか
以下でそれぞれ具体的に説明します。
技能に関する条件
2023年時点で特定技能には12の分野があり、各分野の中で業務内容で細かく区分がわかれています。
転職前と違う区分で再就職する場合は、新しい区分の特定技能評価試験に合格することが必須です。
たとえば、飲食店(外食業)で働いている人材が介護分野に転職するときは、新たに介護分野の職種に対応した技能試験に合格する必要があります。
順番としては、先に試験に合格してから在留資格の変更申請をします。
そのため、期間に余裕を持って早めに準備を始めることが重要です。
転職元の企業に退職を申し出るときはすでに技能を習得した状態にしておいた方がよいでしょう。
一方で、これまでと同じ区分の中で転職する場合は、再度の技能試験は不要です。
この場合は次に説明するビザの切り替え申請が許可されれば転職可能です。
転職前と後で職種や業務内容が近く、制度上でも同じ区分になる場合は、転職のハードルが低くなります。
在留期間に関する条件
もうひとつの条件が「通算5年間」という特定技能1号の在留期間に関する条件です。
特定技能外国人の在留期間は、期限の3ヶ月前から申請すれば延長が可能です。
しかし、特定技能1号は通算で5年間が更新の上限となります。
5年の期限が近づいている段階で転職しようとすると、残りの期間が短すぎて実現できなくなります。
なお特定技能2号については、通算5年間までという制限はありません。
特定技能転職のハードルが高い理由
このように特定技能外国人の転職は制度上は問題なくできます。
しかし実際のところは転職のハードルを高くしている要因がいくつかあります。
在留資格の変更申請に日数がかかる
特定技能の転職が難しくなる理由のひとつが、出入国在留管理局での在留資格の変更申請(ビザの切り替え審査)に日数がかかるという問題です。
転職する本人がどれだけ効率的に準備しても、入管の審査を早めることはできません。
審査に要する期間は一定ではなく、2週間程度で終わることもあれば、状況によっては1ヶ月を超える可能性もあります。
在留資格の変更手続きが終了して、新しい在留カードが手元にある状態になってはじめて転職先の企業に入社できます。
申請中に収入源がなくなる
特定技能外国人は、再就職が決まるまでの「つなぎのアルバイト」をすることができません。
在留資格の指定書に記載されている、事前に登録した就業先以外では働くことができないためです。
そのため、在留資格の変更申請の結果が出るまでの1〜2ヶ月程度は、収入無しで過ごすことになります。
仮に転職先に入社するまでの期間を2ヶ月間と想定すると、新しく所属する受入れ企業から最初の給料が振り込まれるのは約3ヶ月後となります。その期間は貯金で過ごすことになります。
また、新しい勤務先を探すために面接を受けたりなど転職活動や、住所地の役所での証明書類の取得、転職に必要な各種申請には何かとお金がかかるものです。
もし在留資格の変更申請を行政書士事務所に依頼するなら、15〜25万円程度の費用がかかります。
転職活動はまとまった金額の貯金がある状態ではじめる必要があります。
慣れない日本での転職活動
外国人労働者としては、慣れない日本での転職活動は日本人と比べて苦労が多くなります。
たとえば、日本人ならスムーズに利用できるハローワークや人材紹介サービスも、外国人にとっては利用方法が理解しづらいといったこともあるでしょう。
転職先の企業に申請をサポートする体制があるかどうかにもよりますが、こういったことも特定技能外国人の転職のハードルが高くなる要因となっています。
特定技能外国人が転職するための手続きと届出
このように困難の多い特定技能の転職手続きですが、本人に熱意と該当分野での能力があれば乗り越えられない壁ではありません。
ここからは、実際に転職することが決まったときに必要な手続きを説明します。
全体像は以下の表のとおりです。
転職元の企業(旧受入企業) | ・特定技能雇用契約に係る届出 ・受入れ困難に係る届出 ・支援委託契約に係る届出書 ・通常の退職手続き(保険手続きや源泉徴収票の発行など) |
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転職先の企業(新受入企業) | ・外国人の在留資格変更許可の申請で必要な書類を用意する |
特定技能人材本人 | ・在留資格変更許可の申請 ・所属機関に関する届出 |
それぞれの手続き・届出の内容を具体的に見ていきましょう。
転職前の企業が行う手続き・届出
特定技能の受入企業は、外国人が入社したり退社したりするときに、厚生労働省に届出を行い状況を報告することになっています。
特定活動の転職では、以下うち個々のケースにおいて該当する届出を行います。
- 特定技能雇用契約に係る届出
- 受入れ困難に係る届出
- 支援委託契約に係る届出
このうち、支援委託契約に係る届出は登録支援機関と契約があった場合に行います。
転職のケースでは、外国人が退職したことで支援委託契約が終了になったことを届け出ることになります。
上記のほかに、特定技能外国人の転職でも日本人と同じような退職時の手続きを行います。
たとえば、社会保険や雇用保険を終了させる手続き、源泉徴収票の発行などがあります。
転職先の企業が行う手続き・届出
転職先の企業は、これから受け入れる外国人が在留資格を変更するときに必要な書類を交付します。
- 雇用条件書
- 特定技能外国人の支援計画書
- 社会保険の領収証
- 役員の住民票
これらの書類は特定技能のビザ審査で使われますので、不備がないように準備することが重要です。
転職する本人が行う手続き
転職する本人が行う手続きは以下の2つです。
- 在留資格変更許可の申請
- 所属機関に関する届出
出入国在留管理局(入管)で行う在留資格変更の許可申請(ビザの切り替え)は特定技能人材本人が行います。
また、受入企業の職員が代理で申請することもできます。
所属機関に関する届出は、「転職元の企業を退職したとき」と、「転職先の企業に入社したとき」にそれぞれ提出します。
届出期日はいずれも14日以内です。退職してから新しい職場への入社が14日以内に完了するなら、同時に届出することも可能です。
また、出入国在留管理庁のホームページを参照しながら、届出の様式をダウンロードし、オンラインで提出することができます。
あとは、新旧受入企業で通常の退職手続き、入社手続きが終われば転職が完了します。
在留期限が迫っているときは「特定活動ビザ」
転職先はすでに内定しているが、在留資格の切り替え申請が終了しておらず、在留期限が迫っているというケースも考えられます。
このような状況に対応できる「特定活動」と呼ばれるビザがあります。
4ヶ月間という期限付きの特例ですが、就労可能と認められた場合はビザの切り替え前に「特定活動ビザ」で転職先に入社することもできます。
特定技能外国人の転職の注意点
以下で特定技能外国人の転職についての注意点についてまとめています。
転職により在留期間の総収入額が少なくなるリスク
特定技能1号の在留期間は通算で5年間までと決められています。
しかし、転職に必須となる在留資格変更の許可申請の結果を待っている間は、アルバイトなどをすることができません。
限られた5年間の中で数カ月間収入が無い期間が発生します。
その結果、転職することで5年間の総収入額がかえって少なくなる可能性もあります。
待遇の改善、給与アップを求めて転職する場合は、トータルで収入アップにつながるのか改めて検討したほうがよいでしょう。
在留資格の変更申請が却下された場合
特定技能の転職では在留資格の変更申請が必要です。
もし何らかの不備があり変更申請が許可されなかった場合は、在留資格を失うことになります。
在留資格がなければ当然帰国しなければなりません。
この状況で継続して日本での就労を希望する場合は、一度帰国した上で再度ビザの取り直しをすることになります。
引き抜き自粛の規定について
特定技能の転職について考えるときは「引き抜き自粛の規定」についても知っておく必要があります。
これは、特定技能の外国人労働者が特定の企業や地域に偏るのを防ぐため、引き抜き行為を自粛するよう政府から要請されて決められた規定です。
この規定があるため、外国人労働者を積極的に受け入れたい企業があっても、企業側が特定技能外国人を説得して自社に転職させるということはできなくなっています。
まとめ
特定技能外国人の転職について、条件や手続き方法、注意点などを紹介しました。
特定技能の転職が日本人の転職と大きく違う点は、主に以下の3つです。
- 転職先の技能試験に合格する
- ビザの切り替え申請を行う
- 在留期間の制限がある
技能要件を証明する試験と、ビザの切り替え申請にそれぞれ一定の日数がかかりますので、短期間で転職が完了しないことに注意が必要です。
特定技能外国人の転職は日本人と比べてハードルが高く、時間も労力もかかります。まずは特定技能人材の働きやすさに配慮して、長く活躍してもらえる環境を整えましょう。